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亜脱臼の臨床【原因編】

本日は、片麻痺に伴う肩の問題として『肩関節の亜脱臼』について、投稿させて頂きます。

亜脱臼=肩の痛みではない。

古い文献ですが、腕に重度の麻痺がある片麻痺患者では、60~73%の患者に亜脱臼が生じていると報告されています(Najenson et al1971…)。

それほど亜脱臼は起きりやすい事が伺えますが、基本的に麻痺側上肢を管理していれば痛みが出現する事はありません。

肩の亜脱臼自体は痛みを伴いませんが、組織や繊維を非常に損傷しやすく、二次的合併症による疼痛が主な原因となります。

亜脱臼を引き起こす素因(肩関節ロッキング機構)

亜脱臼を引き起こす因子について、Basamajian(1979/1981)とCailliet(1980)は以下に説明しています。

『肩関節のロッキング機構』

○ 肩甲骨の向きが正常のは場合
↪︎関節窩は上方、前方、下方を向いている
↪︎上腕骨頭が下方に動く際は、下方変位を防ぐ為、外側にも動く
↪︎腕が内転位にある場合、関節包の上部と烏口上腕靭帯は緊張し、上腕骨頭の外側の動きを防ぐ
→以上の保護的な役割を肩関節のロッキング機構と呼んでいる

※肩関節外転時は、ロッキング機構は働かず、回旋筋腱板(ローテーターカフ)が安定させる。

肩甲上腕関節の亜脱臼を防ぐ上で重要な筋は、「棘上筋/三角筋後部繊維/棘下筋」です。

主に、腕に荷重がかかったとき、棘上筋は関節包の水平方向の張力を補強します。また、腕が体側に垂れ下がっている時も棘上筋は働いています。
 
ここで伝えたいことをまとめると、『肩甲骨のアライメントが整っていれば、関節窩が正常な向きにあり関節包に適切な張りが起きるので、上記の筋が活動しなくても、ロッキング機構が働くので亜脱臼は起きない』ということです。
(腕神経叢損傷後に肩の筋に麻痺が生じても亜脱臼が見られないのはこの為です)

❶ 片麻痺の肩関節亜脱臼の原因

腕を体側に垂らした時に、他動的な肩関節のロッキング機構が働かず、それに関係する筋の反射や随意的活動による指示が得られない患者では、必然的に亜脱臼が生じます。
 
以下、特徴的な現象について挙げます。

☑︎ 肩甲骨を挙上する筋の緊張や活動性が失われ肩甲帯が下制する。また、肩甲骨を前方回旋させ関節窩を上方に向ける前鋸筋の働きも失われる

☑︎ 肩甲骨は脊柱に近づき、下角が内転し、反対側の下角と比較して下がっている。

☑︎ 肩甲骨内側縁は浮き上がり、翼状肩甲様に見られ、これを修正する際に抵抗感を感じる。このことから、上肢は弛緩状態であるも、一部の筋群の緊張は高まっていることが予測される。

→小胸筋の緊張での抵抗
→肩甲骨を下方回旋、内転、後退による上腕骨外転位となり、関節包の緊張はなくなり、上腕骨頭の抵抗がなくなることで関節窩を滑る

☑︎ 棘上筋/棘下筋/三角筋後部繊維のいずれかの萎縮し、弛緩した関節包に代わって代償する作用が失われる。
→肩甲骨を他動で適切な位置に修正(下角を内転方向に)すると、一時的に亜脱臼がなくなる=他動的な肩関節のロッキング機構

❷ 片麻痺の肩関節亜脱臼の原因

Butler(1991)とDavies(1990)は、神経系の損傷後に、どのようにして神経に掛かる張力が増加し、害を及ぼすように変化しているか、また、片麻痺では腹部の筋の活動性が低く、緊張が低下していることを話している。

☑頸部での神経にかかる張力が高まる為に、鎖骨と肩甲骨が挙上する。
→肩甲帯の挙上に対して、体幹筋が弛緩しているため修正できない。

関節窩/肩峰/鎖骨が上に引かれるが、麻痺した腕の重さで上腕骨頭はそれについていけず関節から離れる。

☑張力が高まった神経は関節の肢位に影響を与え、緊張が低下した体幹と肩関節を安定させる筋の緊張と活動の回復を抑制する。
→神経の緊張が高まると、それが支配する領域に痛みの症状をもたらす

片麻痺の肩関節亜脱臼の治療

治療の目的は以下の通りです。

1.肩甲骨の肢位、関節窩の向きを修正し、肩関節のロッキング機能の獲得
2.神経系の異常な張力を減少させ、肩関節の位置を修正し、回旋筋腱板の再獲得
3.肩関節を安定させる筋の活動や緊張を刺激
4.関節やその周囲の構成体を損傷することなく、痛みのない他動的関節可動域を維持
5.上肢の管理(傷つきやすい肩関節を保護)

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