敵対的買収と買収防衛策の種類について、世界一わかりやすく解説してみた

どうも、のっちゃんです。

今回は敵対的買収の種類について、最もわかりやすくまとめてみる試みをします。

というのも、私のっちゃんは大学時代に経済刑法を学んでいました。そしてその延長で会社法や金融商品取引法を学んでいまして、その一環で敵対的買収について勉強していました。

最近書類整理をしていたのですが、その際に大学のゼミで使用していた敵対的買収をまとめた書類を発掘しました。そこで供養の意味も込めて、こちらにメモしておきます。


敵対的買収とは

敵対的買収は、買収対象企業の経営陣や株主の同意を得ずに行われる買収の形態です。M&Aの一形態としても知られており、現在は「同意なき買収」とも呼ばれています。

会社法によって、株式会社の経営権は株主総会が保有していると規定されています。また株主総会の議決権は株主が持っている株式の数で決定しています。初心者の方は「株式を購入する=株式会社の経営権を部分的に獲得する」と押さえていただければ大丈夫です。
この株式というものは個人が購入することもできますが、法人が購入することもできます。つまり会社が他社の株式を一定以上購入することができれば、他社の経営権を自社が掌握することもできるということです。
会社法で株式の1/3以上を保有していれば特別決議(定款変更や代表取締役の解任など、特別な意思決定をする決議)を単独で阻止することができます。しかし金融商品取引法では、会社の株式の1/3以上を購入する際はその意思を公表しなければならないとされています。この公開買い付けのことをTOB(Take Over Bid)と呼びます。つまり株式の1/3を購入することで会社の経営権の多くを獲得できるが、そのためにはTOBが必要になる、というイメージです。

欧米では敵対的買収の事例が多く、マンハッタンを舞台にした弁護士ドラマ「SUITS」でも敵対的買収のエピソードがあります。
一方日本は敵対的買収が少ないと言われています。経営モデルや法律的な理由もありますが、日本は伝統的に敵対的買収に対して批判的なイメージを持つことが多いと言われています。そのため日本で敵対的買収が成功する事例が少ない、ということですね。

この敵対的買収(敵対的TOBと呼ぶ場合もあります)をされた場合、買収をされた側が取れる選択肢は2つあります。1つはその買収を受け入れること、もう1つはどうにかして買収を阻止することです。
この「阻止する」方法にはいくつか種類があり、通称「買収防衛策」と呼ばれています。そこで以降はこの買収防衛策について説明します。

買収防衛策

ポイゾンピル(Poison Pill)

ポイゾンピルとは、敵対的買収企業が株式を大量に取得した場合に、株主に追加の株式を購入する権利を与えることで、株価を押し上げ、買収企業に高い費用を負担させることを目指す手法です。

簡単に説明します。
新しい株式を発行する権利(新株予約権と呼びます)を、ある条件が成立した際に安価or無料で発動するようにしておきます。
そして買収先が「◯株分買収したい!」と公表したタイミングでこの新株予約権を行使します。すると全体の株式の数が増えるため、相対的に買収先が予定している株式の割合は低下します。これによって買収先に経営権が譲渡されるのを防ぐのです。

予め新株予約権という毒薬(Poison Pill)を仕込んでおいて、TOBが行われた際に発動させる、ということでポイゾンピルと呼ばれています。
また新株予約権という権利(Right)を予め仕込んでおく(Plan)ということで、ライツプランとも呼ばれています。

ポイゾンピルの事例で最も有名なのは、やはりニッポン放送の買収防衛事例でしょう。堀江貴文氏が取締役を務めるライブドアがニッポン放送の買収を画策しましたが、実質的な親会社であるフジテレビに対して新株予約権の行使を行いました。
結果として買収は失敗しましたが、日本で最も有名なポイゾンピルの事例として、今でも金融商品取引法を学ぶ学生にとっては必修の事例となりました。

ちなみにポイゾンピルは他の株主も巻き込んで買収防衛を行うため反感を買うことも多い、まさに毒薬なわけですね。

ゴールデンパラシュート(Golden Parachute)

ゴールデンパラシュートとは、敵対的買収が成功した場合に、企業の幹部や重要な従業員に対して給与や退職金などの特典を与えることで、買収企業の誘いを受け入れないようにする手法です。
給与や退職金といった特典を必要とすることで買収コストが上がり、結果として買収者との交渉材料になる、という買収防衛策です。

他の対抗措置を講じるときに、ゴールデンパラシュートがあることで、「従業員を守る体制は整っており、経営陣の保身のためではない」と主張することができるという特性もあります。

ちなみによく似た防衛策で「ティンパラシュート(Tin Parachute)」と言うものもあります。これは予め退職金や給与を高額に設定しておくことで、買収コストを上げるというものです。

パックマンディフェンス(Packman Defense)

パックマンディフェンスは、敵対的買収を受けた企業が、買収企業に対して対抗するために採用する戦術の一つです。具体的には、企業が自身を買収しようとする敵対的買収企業に対して、逆にその敵対的買収企業を買収するという行動をとることを指します。

要するに、敵対的買収を仕掛けた企業が、その買収企業に対しても同じように買収提案を行い、買収企業を防衛するという戦略です。この手法は、買収企業が意図したよりも高い費用を負担させることで、買収企業の意欲を削ぎ、買収の阻止や合意に向けた交渉を促すことを目指します。

パックマンディフェンスは、敵対的買収企業に対して非常に強力な対抗手段であり、買収企業にとっては予期しない展開となることがあります。さらに、買収しようとした会社自体が別の会社に買収されそうになる危険性もあることから、非常に強力な買収防衛策と言われるわけです。

ちなみに語源はあのゲームのパックマンです。敵に追われているパックマンは、特定のアイテム(クッキー)を手に入れることで、敵を食べる能力を得ます。「敵に追われて食べられそうなところ、逆転して敵を食べることができる」というところからパックマンディフェンスと名付けられています。ちなみに別名はデッドマンズ・トリガーです。

クラウンジュエル(Crown Jewel)

クラウン・ジュエルは、企業が重要な資産や事業部門を売却することで、買収企業による敵対的買収を阻止する戦略です。この戦略では、買収企業が企業全体を取得する代わりに、特定の資産や事業部門のみを買収することになります。そうすることで自社の価値を低下させる代わりに、買収者の意欲を削ぐことができます。
対象会社を「王冠」にたとえ、「王冠の宝石」を外すことで、「王冠」の価値を減少させることになぞらえているので、クラウンジュエルと呼んでいます。また日本語では「焦土作戦」とも呼ばれます。

クラウン・ジュエルは、買収企業が特定の重要な資産を獲得することができないようにすることで、企業の経営権を守ることを目的としています。これにより、買収企業が企業全体を買収するための重要な要素が取り除かれ、敵対的買収を防止または延期することができます。

会社法によって、会社の事業の全部または一部であっても重要な事業の譲渡の場合には、会社法上株主総会の特別決議が必要であるが、重要な財産の処分は取締役会決議で可能であるとされています。もっとも、買収防衛としてこのような財産譲渡をおこなう場合、この決定を下した取締役は取締役としての善管注意義務、忠実義務違反を問われる可能性があるといわれています。そのため日本でクラウンジュエルの事例はあまり見られない、という特性があります。

スタッガードボード(Staggered Board)

スタッガード・ボード(Staggered Board)とは、取締役の改選の時期をずらすことで、取締役全員が一度に交代させられる事態を防ぎ、敵対的買収によって現職の取締役全員が解任されるまでの時間を稼ぐという買収防衛策の1つです。

スタッガード・ボードを導入することで、現職の経営陣は実質的な経営権を一定期間保持することが可能となります。
一方で新たな経営陣の経営方針の浸透に時間がかかり、一般株主の利益の毀損につながると指摘されることもあります。

語源は「違い違い(Staggered)」+「取締役(Board)」で、取締役会が違い違いに入れ替わることから名付けられました。

スーパーマジョリティ条項(Supermajority Provision)

スーパーマジョリティ条項は、買収企業が企業を取得するために必要な株主の賛成投票の割合を、通常の過半数以上の賛成ではなく、より高い割合に設定します。

例えば、通常の株主総会での賛成投票の過半数が50%であるとすると、スーパーマジョリティ条項では、70%以上の賛成が必要な場合があります。

このように高い賛成率を求めることで、敵対的買収企業が企業を取得することが難しくなります。買収企業は、より多くの株主の支持を得る必要があるため、買収プロセスがより困難になります。これにより、企業の経営陣や取締役会は、自らの意思決定権を保護し、企業の利益を守ることができます。

ホワイトナイト(White Knight)

ホワイトナイトとは、敵対的買収を試みる企業に代わって、買収対象となる企業を買収しようとする、より友好的な買収企業や個人のことを指します。

敵対的買収の際、買収対象企業はしばしば買収企業による買収を阻止するため、別の買収提案を受け入れます。このような提案を出す企業や個人が、敵対的買収企業とは異なり、買収対象企業やその経営陣と協力しようとするため、その名前が「ホワイトナイト(White Knight)」と呼ばれます。

ホワイトナイトは、買収対象企業を敵対的買収から守るため、より良い条件で買収を提案することがあります。これにより、買収対象企業は敵対的買収企業との交渉を避け、事業の継続性や株主の利益を保護するための安定した買収提案を受け入れることができます。

MBO(Management Buy Out)

マネジメントバイアウトとは、企業の経営陣や管理者たちが、通常は外部の投資家や金融機関からの支援を得て、自社の株式を買い戻して企業を買収することを指します。通常、MBOは株式を買い戻すための資金を調達するために、外部からの借入れや投資を必要とします。

厳密には買収防衛策とカウントしないこともありますが、経営陣によって自社株を買うことで買収を防ぐと言う点で、買収防衛策の1つと数えることもあります。

経営陣ではなく労働者によって株式を買収する、EBO(Employee Buy Out)という手法も存在します。

まとめ

いかがだったでしょうか。他にもCOC条項やプットオプション、資金ロックアップなど様々な種類がありますが、おそらく学部生が学ぶものは網羅されていると思います。

ちなみにのっちゃんはこれを初めて勉強した際、「名前がかっこいい防衛策が多いなぁ」と思った記憶があります。

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