見出し画像

【広告本読書録:080】毎日読みたい365日の広告コピー

WRITES PUBLISHING 編 ライツ社 刊

2019年の夏に発作的にはじまった広告本読書録もはや80回目。65回目ぐらいまでは本棚の広告本を漁っては書いていたんですが、ここ数回はさすがに在庫切れ気味。本屋さんでは自然と「広告・マーケティング」コーナーに足が向かいます。

そこにはまだ読んだことのない広告本が。この先も未読作を手にとってはここで紹介していくのか…とおもうと、なかなかたのしい気持ちになります。今回、紹介する『毎日読みたい365日の広告コピー』もその一冊。ずいぶん前からその存在は知ってはいました。

知ってはいたけど手がでなかったのには理由があって。

そもそもこの読書録をはじめたきっかけは、あるD系のデジタル広告会社の人が打ち合わせ中に「なんかパッといいコピーが書けるようになるいい本ないかな」と聞いてきたことにありました。

なので、あくまでぼくが広告づくりの参考にできた本だけを紹介する、というルールを勝手に設けているんですね。

それでいくと今回の本は、広告づくりの参考になるのか?というとちょっとわからない。少なくともこれまでぼくはしてこなかった。コピー年鑑のように写経ネタとして使えば、という意見もあるかもしれませんが、だったらコピーだけ抜き出しているより、広告としての完成形が載っている本が他にもいくらでもありますよね。

この本は1日に1本、その季節のその日にあったキャッチコピーを取り上げてカレンダーのように紹介している、いわば名言集。

「はじめに」で編者さんも解説していますが、名コピーを広告という箱から取り出して、暮らしに身近な名言集として毎日読んでもらうことができたら、という趣旨で編集されたものです。

だから、ちょっと違うかなーっておもって、手をだしてませんでした。類似本の『0才から100才の広告コピー』もおなじです。しかし、今回あえて手にとって読んでみると「おおこれは」という発見があった。その発見をどうしても書き留めておきたかったので、取り上げることにしました。

コピーと名言、あるいはポエム

ぼくがコピーライターとしてキャリアをスタートさせたときから、ずっと上司や先輩に言われてきたことがあります。それが「ポエムみたいなコピーはぜったいに書いてはいけない」です。

コピーはあくまで企業や商品、サービスを消費者に知ってもらい、好感を抱いてもらい、選んでもらうための商業文である。そこには制作者の個人的な思いや考えは必要ない。必要ないどころか入れてはいけない。あくまで代弁者、黒子に徹することがマストなのだ。

それが「コピーはポエムに非ず」論の背骨を支える思想でした。結構ひろく支持されている考え方で、最近も分譲マンションの広告コピーがあまりにも現実から飛躍していることから「マンションポエム」と揶揄されていましたね。どうもコピー界の人はポエムを見下す傾向にあるようですが…。

人生に、南麻布という贈り物。
洗練の高台に、上質がそびえる。

こういうのがマンションポエム。ぼくも昔、めちゃくちゃ書いてました。そんなぼくでもこれにはかなわない、とおもうフレーズがこれ。

そこは、成城でもなく、仙川でもない。
そして、成城でもあり、仙川でもある。

それはどこなんだよ、とおもわずツッコミたくなりますよね。まあ、マンションポエムについてはこれぐらいにして。ポエムですらこれだけ白い眼でみられるんですから、コピーが名言だなんてもってのほか。そんな声が業界のお歴々から聞こえてきそうです。

つまりコピー原理主義の思想というか哲学としては、とにかくコピーはその企業、商品、サービス、あるいはそれらを使う人の生活様式に立脚して発想されたものでなくてはならない、ということなんです。

だから、原理主義にあてはめて考えると、この『毎日読みたい365日の広告コピー』は企画そのものがありえない、ということになります。

だって広告コピーである以上、そのターゲットが目にする媒体に掲載されてはじめて機能するものだし、そもそも広告はコピーだけで成立していないのでビジュアルだったり、レイアウトや書体など含めたデザインの構成要素の側面も担っているわけで。

そういったひとつひとつの要素が統合されてコミュニケーションが成立するように作られているものなのに、それをキャッチだけ抜き出して別の皿にポンと載せてはいどうぞ、というのはキミィ、いかがなものかね。

と、いわれるような気がするんですよね。いわれないかもしれないけど。

コピーはとっくに商品やサービスから離れていた

たしかに1968年生まれのぼくもそういう教育を受けて育ってきたので、広告コピーが名言やポエムであってはいけないような気がします。でも、それはあくまで第一義であって、使い終わったコピーを名言と捉えたりポエムのように愛でるのは勝手じゃね?なんておもったりもしていて。

つまりコピーライターが「よおし、いっちょいいこと言ってやろう」と自己顕示欲を丸出しにしたり「オレいますごくいいフレーズおもいついた。これこんどのプレゼンでつかおう」というスケベ根性で仕事するのはアカン。

しかしあくまで企業の代弁者として、その商品なりサービスなりの存在をひろく世の中にしらしめようと画策してつくったコミュニケーションツールとしてのフレーズが、結果的にターゲット以外の人のココロに届くことになるのはすこぶるよろしいのではないかと。

だいたいとっくの昔にコピーは商品やサービスから離れているんですよね。いまぼくの手元には宣伝会議の『コピーライター、書く語りき。』というコピーの図鑑みたいなのがあるんですけど、それを開いてみるとわかる。

たしかに1950年〜60代の

ワタナベのジュースの素です もう一杯
なんである アイデアル
クリープを入れないコーヒーなんて…

商品からつかず離れずの距離で書かれているコピーは、名言にはなりえないですよね。ポエムにもならない。

でも70年代にはすでに

ただ一度のものが、僕は好きだ。
知性の差が顔に出るらしいよ……困ったね。
女の胸はバストといい、男の胸はハートと呼ぶ。

すっかり名言、ポエム調のフレーズが台頭してきているわけです。おそらくこの頃にバチバチだったコピー原理主義と自由散文主義者との戦いの残滓のようなものが、ぼくの少し上の世代までコッテリ残っていたのでしょう。

じゃあ自由散文主義派の方が最初っから商品やマーケットを無視してコピー書いてたかっていうとそんなことはないんですよね。そこをしっかりと考え抜いた上で、ターゲットや時代背景、生活様式、その他もろもろを総合的に判断した結果、いちばん届く表現がそれだった、とおもうんです。

思い当たるフシを突くコピー

さて、長い前フリを経ていよいよ『365日の広告コピー』について。一年365日ぶん、一日一日にコピーがあてがわれていて、だいたいキャッチコピーなんだけど、中には短めのリード文が添えられているものもあり。

読んでいくとわかるのですが、結構、絶妙な感じでその月のその日に寄せて選ばれているんですね。さすがにぜんぶというわけにもいかないですが、それでも春には春の、秋には秋のコピーが並んでいる。このあたり、選者や編集のみなさんのセンスと熱量を感じます。

生まれて初めての経験を、生まれてくる赤ちゃんが、たくさんくれる。

これが10月10日の一本、だったりしてね。とつきとうかとかけてるんです。うまいよね。

で、さらに読みすすめていくと、ある傾向に気付きました。

それは、どのコピーも誰かの思い当たるフシを突くものになっている、ということ。

もとあった場所、つまり雑誌なり新聞なりポスターからそれだけを取り出して、書体や級数といった鎧をはがして丸裸にして、まったく別の場所に置いても「持つ」コピー。耐久性のあるフレーズとでもいいましょうか。それは、かならず誰かの思い当たるフシを突く機能を果たしている。

そうか、きちんとロジカルに考え抜かれた結果、名言だったりポエムとしても耐えうるコピーというのは、みんなが思っていても言葉にできなかったことや想いを代弁しているんだ。そのことがわかったんです。

あと、もうひとつわかったことがあります。それは、一人の人間はたった一つの視点や思考で生きているわけじゃない、ということ。毎日、毎時間単位でいろいろな感情や想いが生まれては消えている。決して単純ないきものではないということをこの本は教えてくれました。

と、いうのも何の気なしにパラパラめくっていると「おお」とか「ふうん」とココロに入ってくるものがあるんですが、その逆にスルーしちゃうものもあります。でも別の日にパッと開いたページにあるフレーズに、前は惹かれなかったのになぜか今日は魅力をかんじるということもあって。

ああ、おれというまるで単純な人間の中にもいろいろな側面があるんだな、とあらためておもったわけです。そりゃそうだ、実際にぼくたちはたくさんの選択肢のなかで生きているんです。ある会社のある商品だけを着て、使って、食べて生きてるわけじゃない。

ユニクロでいいや、という日もあればハイブランドを着たい日もある。コーヒーが大好きだけどたまには美味しい紅茶を飲んでみたい。怒りっぽいけど涙もろいところもあったり。

そう考えると、広告をみたとき、コピーに触れたとき、あ、これは自分がターゲットじゃないから、と感覚に蓋をするのはたいへんもったいないことだなあ、とおもいました。もう少し名言やポエムにも耳を傾けてみよう、と。

そうして、なるほど「毎日読みたい」というタイトルはそういう意味だったのか、とハラオチした広告本読書録80回目なのでありました。いやあ、読書からはいろいろ学べますな。

この記事が参加している募集

スキしてみて

読書感想文

この記事が受賞したコンテスト

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?