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#エッセイ 記事まとめ

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noteに投稿されたエッセイをまとめていきます。
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2023年10月の記事一覧

フィンランドのおばあちゃんと毛糸の靴下

夜のお月様が綺麗に冴え渡り、澄み渡る空気から冬のおとづれを感じる今日のこの頃。 あったかいお風呂が幸福なこの季節、同じく私が楽しみにしているのは「毛糸の靴下を履くこと」だ。夏の間、引き出しの中で眠っていたカラフルな毛糸の靴下たちを引っ張り出してきて、優しいあたたかさに幸福感を感じるこの季節を私は愛している。 ↓毛糸の靴下は、フィンランドのおばあちゃんが私に贈ってくれた靴下たち。 毛糸の靴下で学校を歩き回るフィンランドの高校生 私が高校時代1年間を過ごしたフィンランドの高

連想ゲームで会話を転がす

先日、歌人のなべとびすこさんとスペースで雑談配信を行った。 なべとさんとは一度しかお会いしたことがない。しかもその一度も、イベント時だったため挨拶程度しかできなかった。じっくりお話するのはこれが初めてだ。 だから正直、会話が続くかが心配だった。話題が尽きて、気まずい沈黙が流れたらどうしよう。そう思い、あらかじめいくつかの質問を用意して配信に臨んだ。 しかし結果から言うと、私は用意していた質問を使うことがなかった。2時間と少しの配信の間、会話が途切れることがなかったのだ。

恋人が見つかる飲食店ってどういうもの?

お知らせ 林さんが書いた新しい小説が上梓されました。ぜひお読みください。 前回の記事はこちら モテるバーテンダーはどうやって女性を誘うのか?いらっしゃいませ。 bar bossaへようこそ。 僕のある親しくしているバーテンダーが、とにかくモテるというか、たくさんの女性とデートしている男性でして、一度「どうやって誘っているの?」って聞いてみたことがあるんです。 バーのカウンターって、他の飲食店の話題が出ることが多いんです。基本的に、バーのカウンターで会話をする人たちって

運動オンチ40代の主婦が、八ヶ岳に登ることを夢みて登山学校に入った話

私には趣味や夢がないなあと思ったことはないだろうか。 実は、私も10年前は仕事と子育てに追われた日々を過ごすだけだった。楽しみといえば、レンタルビデオ店で韓ドラを借りて号泣すること。 そんな私が今では登山歴9年、山岳会に所属し毎週登山。 この記事では、私がどうやって登山という趣味をもち大きな山に挑めたのか、そのヒストリーをお話しよう。 この記事を読んだあと、きっとあなたも夢に挑戦したくなるはずだ。 母からの一本の電話登山を始めたのは、ささいなきっかけだ。それは遠方に

おばあちゃんは88歳で本を書き始めた。

小さい頃から本が大好きだったおばあちゃん。 とにかく活字を読むのが好きだった。 でも歳を重ねていくうちに、大好きだった本も目が疲れるから読めなくなっていた。 そんなおばあちゃんが、88歳で本を書くと言い始めた。 なにか物語が思い浮かんだわけではなく、 自分のことを書いて残しておきたい、という想いからだった。 原稿用紙に震える手で書き始め、 最後の方はもう字が書けなくなってしまったので おばあちゃんが喋る内容を家族が聞いてメモを取っていくやり方に変わった。 おばあちゃん

【無料】ろう学校の幼稚園の入園式は、重みがまるで違う

前回のお話はこちら スギナは生命力が強い。杉のような形の葉はくるぶしまでしか届かないが、地下には1メートル以上根が伸びる。どこにでも生えるので、駆除しようと掘り返すと、ちぎれた節から芽を出し、無限に増殖していくそうだ。農業や園芸をする人には知られた、しぶとい雑草だ。 遊歩道の脇に生えたスギナを、散りかけの桜が斑点に染めていた。ろう学校の入学式の日。この日のために、シャツ、ジャケット、パンツ、靴、蝶ネクタイを買いそろえた。二朗は少し動きづらそうにしていたけれど、このかわいさ

卒業煮込み

僕は卒業見込みという言葉が怖い。バイトを探すにもインターンを申し込むにも会社説明会に行くにも、必ず何年度卒業見込みなのか書かされる。 待ってください、今の僕を評価してくださいよ。僕が何を考えて、何をしてるのか、今の僕と今のあなたとで話す、それじゃダメなんですか。なんでまず前提として未来の僕の状態を確認するんですか。 なんの迷いもなく自分は𓏸𓏸年度卒業見込みですと言える皆さん、おかしいとは思いませんか?いくら今あなたが順調に単位を取得できていたとしても、何が起こるかわからな

英語を好きになったきっかけ「缶 蓋 棒」

「comfortable」は、アメリカの地を踏んで初めて覚えた英単語だ。 もう15年は前になる。 わたしは高2の夏から一年の留学を経験した。滞在したのはアメリカ南西部で、メキシコからの移民が多い地域だ。 飛行機の乗り継ぎアナウンスも、となりに座った横幅1.7倍のおっちゃんが陽気に話しかけてくる内容も、降りた小さな空港で見た案内マップも、なにひとつ頭で日本語に変換されないまま、ホストファミリーに出迎えられた。 高そうなバンの隅っこに乗り込み、縮こまって揺られることしばら

詐欺の手法も進化する

お知らせ 林さんが書いた新しい小説が上梓されました。ぜひお読みください。 この連載のこれまでの記事はこちら 突然妻の携帯電話にかかってきた不思議な電話いらっしゃいませ。 bar bossaへようこそ。 先日、日曜日の午後2時頃に、妻の携帯電話に非通知で着信がありました。出てみると、若い女性の声でこう言いました。 「自治会のスズキですけど、謝らなきゃいけないことがありまして」 スズキというのはもちろん仮名です。ただ、実際も珍しくない名字で、例えばサトウやタナカといった

【無料】それはろう教育以前の問題なのでは?

前回のお話しはこちら。 二朗が3歳になり、幼稚園を検討しはじめた。聴覚障害者には早期教育が重要で、年少から専門の教育機関に通い始める。どこを選ぶにせよ、親の付き添いは必須だ。送り迎えだけでなく、授業も一緒に受けて付きっ切りでサポートすることになる。 乳幼児教育相談に通っている学校で、素晴らしい先生たちとの出会いがあり、その学校付属の幼稚園に通うことに不満はなかった。でも先生からは、いろいろな学校を見学することをすすめられた。聴覚障害支援の学校は、学校ごとに教育方針がまった

【無料】「聴覚障害者でも話せる」の、何が問題なのか?

「どういう意味なんでしょうか?」 隣に座る妻の声には、ちょっとしたとげがあった。敏感に察した僕は、びびって目を泳がせていた。僕と妻に向き合って座る女性。相手も察したのか、返事に詰まると、部屋にはがちゃがちゃとプラスチックがぶつかる音が響いた。 使い古されたアンパンマンのおもちゃで遊んでいる、息子の二朗。大人の会話が急に止まっても遊び続けているのは、まだ3歳になったばかりという年齢のせい、だけではないだろう。二朗はレバーになった食パンマンの腕を、しきりに上下させていた。

Wow-WowWar-そこに意思はあるんか。

気持ちのいい秋晴れ、平日に休みをとった。 来年から小学生になる長男の就学時検診があり、午後から幼稚園を早退してはじめて小学校にいく。次男もプレスクール。子どものイベントが重なると、どうしてなかなか回らなくなる。フレックスなので在宅でもなんとかなったけれど、思いきって一日有休にした。気持ちが楽である。 朝のバタバタをやり過ごして長男を送り出し、一息つく。次男とパートナーは2階の子ども部屋で遊んでいる。ざっくり片付けを済ませてソファにもたれこんだ。ここのところデスクワーク続き

その燈(ともし火)は燃え続ける

「店を閉めることにしたよ」 マスターは電話口でそう言った。 来るべき日が来たんやなあ・・・。僕は目を閉じ、言葉にならない感情が押し寄せるのを感じた。 先日、僕が30年通ったバーが閉店した。 マスターが大病を患い、カウンターにもう立てなくなったからだ。 僕がこのバーに通い出したのはちょうど20歳の時だった。美味い酒とマスターの厳しくも人情あふれる人柄に惹かれて、当時は3日と空けずに店に通った。 学生の頃は親友や後輩とここでよく飲んだ。若者らしく青臭く語り合った。僕の

【料理エッセイ】七味屋台のおじいさんは渥美清の親友?!

 初詣の楽しみはなんと言っても出店である。参拝の行列に並走し、所狭しと建てられた屋台の量はいつ見ても圧巻。普段、そのお寺や神社を訪れるときと同じ空間と思えないほど見事に領域展開された即興の商店街はもはや芸術だと思う。  そんな中でも、お正月、わたしが欠かさず訪れるのは七味唐辛子の屋台。好みに合わせて調合してくれるのが嬉しいのはもちろん、なんと言っても唄うような口上が気持ちよく、ついつい聞き惚れてしまう。  口上ってなに? って方のために、自分で撮影したものではないけれど、