オレンジページが語る「いま読みたいエッセイ」──創作大賞RADIOレポート⑧ #創作大賞2023
7月17日まで募集している、日本最大級の投稿コンテスト「創作大賞」。第2回となる今回は、16のメディアに協賛いただき、優秀作品は書籍化や連載などのクリエイターの活躍を後押ししていきます。
「参加しているのはどんな編集部?」「どんな作品を応募すればいいの?」というみなさんの疑問や悩みにお答えするため、協賛編集部をお招きしたTwitterスペースを配信してきました。この記事では、オレンジページ編集部の秋山リエコさん、井上留美子さんにご出演いただいた6月21日回のレポートをお届けします。
創作大賞では、オレンジページは「エッセイ部門」「コミックエッセイ部門」の応募作の審査にご参加いただきます。
▼ 配信のアーカイブは下記よりお聴きいただけます。
オレンジページとは
秋山さん(以下、秋山) オレンジページといえば、雑誌名、会社名ともにオレンジページのため、混乱する方もいるかもしれませんが、有名なのは、月に2回出版される『オレンジページ』という雑誌かと思います。ちょうど今月号で、創刊38周年を迎えました。
創刊当時から、料理や暮らし、お金、エクササイズ、読者のお悩みなど、さまざまなことを記事として掲載してきた雑誌です。もともと『オレンジページ』という雑誌は、株式会社ダイエーの出版部門としてはじまったんです。発行したところ反響が非常に大きくて、1985年に発行した直後には、すでに100万部を突破していたとか。その3年後に株式会社オレンジページが設立されました。
井上さん(以下、井上) 創刊から一貫して、オレンジページが生み出していくコンテンツはブレていなくて。「暮らし全般をワクワクさせる」「生きていくのが楽しくなる」といった、身近なところで心地よい暮らしを提供していく。それが、オレンジページという雑誌と会社の大きな特徴です。
—— たしかに、オレンジページさんが発信しているコンテンツには信頼感があります。オレンジページに長くいらっしゃるおふたりが思う「オレンジページらしさ」とはなんでしょう?
秋山 一言で言うなら……「アカデミックすぎない」ところですかね?井上さんはどうですか?
井上 そうですね。アカデミックすぎないとは、物事をできるだけわかりやすく紹介するということ。難しい表現をつかうのって、一見、自分すごいと思ってしまいがちですが、我々がオレンジページで心がけていることは、物事をいかに難しく見せずに伝えられるか。
というのも、オレンジページ編集部に入ってすぐに、絵コンテ(雑誌や書籍のレイアウトや概要が書かれた設計図のようなもの)を徹底的に叩き込まれます。なぜなら、読者に「何を伝えたいか」をハッキリとさせるため。
入社したばかりの編集者は、オリジナルの企画や難しいことをやろうって思っちゃうんです。でも、伝えたいことって、短くシンプルな言葉のほうが伝わりやすい。「誰でもできるのでは?」と思うかもしれませんが、結構難しい。どうやったらシンプルに伝えられるかを考え続けていることが、オレンジページらしさだと思いますね。
予定調和にとどまらないエッセイを読んでみたい
秋山 つい最近、私もこっそりとnoteクリエイターの仲間入りをしたんです。仕事で文章を書いてきたのに、自分の作品としてnoteに投稿するときは、よく見せようとして書いてしまうんですね。でも、実際には肩の力を抜いて、よく見せようとしないほうがおもしろくなるなと実感しています。
今回、私たちが創作大賞で読みたいのは、クリエイターのみなさんが素直に思ったこと、やってみたことをつづったエッセイ。オレンジページといえば、暮らしや食を想像されると思いますが、今回はジャンルを問いません。
—— もう少し具体的に聞いてもいいですか?
秋山 たとえば、一人暮らしをはじめたひとが、ある日料理に目覚めてつくってみた、というエッセイを書いたとします。そのとき、普通にステップアップしていってほしくないんですよね。肉じゃがをつくって、次に、おでんをつくるとか。
—— 「よくあるパターンではないもの」を読みたいということでしょうか?
秋山 そうですね。たとえば、次の日にはポークビンダルーをつくってみたり、アンコウのつるし切りに挑戦してみたり。そういう、興味のおもむくままにやってみた「予定調和にとどまらないエッセイ」を読んでみたいなと思います。
いいエッセイは、普遍性がある・クスッと笑える
—— おふたりが考える「いいエッセイ」って、どんな共通点があるでしょうか?
井上 私は、普遍性があることかなと思います。自分に置き換えたときに、共感できたり、逆に否定したくなったり。反対だとしても、何かしら引っかかるものがあるからこそ、読者はページをめくりたくなるはず。
秋山 私は、悲しい話や辛い話でも、クスっと笑えることかなと思います。また、そのひとが大切にしている考え方が一貫していると、自分に置き換えて元気をもらったり、応援されたりしている気持ちになれますね。そういう、そのひとなりの哲学が表現されているエッセイは、いいエッセイだと思いますし、実際に売れています。
異色な言葉を組み合わせるとオリジナリティーが生まれる
秋山 少し具体的なテクニックになりますが、人があまり組み合わせない言葉を組み合わせる方法は、見出しやタイトルに効果的です。
—— 今回お持ちいただいた本の中でも、キッチン道具のお店を経営している土切敬子さんが書かれた『おしゃべりな台所道具~話しだすと止まらなくなる、道具のおいしい話~』という本のタイトルは、まさに珍しい言葉の組み合わせですね。
井上 私がこの本を担当したのですが、まずタイトルに惹かれますよね。これは、ずっと台所道具を集めてきて、ついついひとに喋りたくなるこの台所道具の良さを伝えたいっていう気持ちがタイトルによく表れています。
秋山 土切さんのお店に行くと、『おしゃべりな台所道具』というタイトルの理由を肌で感じると思うんですけど、商品一つ一つに、土切さんならではの解説がついているんですね。それがまるで、道具たちが本当に語りかけてくるような感覚になるんです。本だけでなく、その実態も備わっているからこそ、いい仕上がりになった本だと思いますね。
お店で売られている「しりしり器」は、人に差し上げるのにちょうどよくて。たぶん30本以上買ってます(笑)。これまた切れ味がめちゃくちゃいいんです。ちょっと写真を見せられないのがすごく残念ですが、もし興味がある方がいたら、ぜひ手に取ってみてください。
井上 最近買った、くどうれいんさんのエッセイ本『桃を煮るひと』も、タイトルだけでグッと惹き込まれますね。「桃を煮る」という言葉がすてきで、何度も言いたくなるほど。果物を砂糖水でやわらかく煮る保存方法のことを一般的に「コンポート」と言うのですが、くどうさんの場合は「桃を煮る」と表現しているところにセンスを感じます。
「普通」や「当たり前」におもしろさは潜んでいる
井上 『私、こっそり離婚をたくらんでいます』というコミックエッセイも紹介させてください。この著者はもともと、雑誌の挿絵などを描いていたイラストレーターさんだったんです。
彼女と打ち合わせすると、話がめちゃくちゃおもしろくて。このひとにコミックを描かせたら絶対におもしろいはずと思っていたタイミングで、「離婚したい」という話が出てきたんです。なので、「せっかくだから描いてみない?」と言って描いてもらいました。
—— 著者はふじわらかずえさんですね。イラストレーターとして活動してきた方がコミックエッセイを描くのってすぐにできるものなんでしょうか?
井上 いえ、オレンジページとしても初めての試みで、恐る恐る出した企画の一つでした。発売してからずいぶん経つんですけど、長く売れ続けていて。離婚というキーワードはコミックエッセイの世界では強いらしく、他社さんからの引き合いも多いです。
秋山 自分にとっては普通のことであっても、友達や家族に話して「おもしろい!」と言われる内容であれば、それを深掘りして書いてみることをおすすめします。
—— この本、夫に対して嫌だと感じる部分が具体的でおもしろいなと思いました!違和感を見逃さず、自分の感情をきちんと描いているところも、読んでいて共感できますね。
井上 そうですよね。おもしろいネタがたくさんあるひとは、ストーリーを膨らませたり、実際とは異なる展開にしたりして、新しい物語をつくることにも挑戦してもらいたいですね。
秋山 もう一つ、暮らしを扱ったエッセイとして、料理家・上田淳子さんの『今さら、再びの夫婦二人暮らし』という本を紹介してもいいですか?
もうすぐ60歳を迎えそうな夫婦が、子どもがこの春に巣立つにあたって、旦那さんともう一度二人暮らしをするときに考えたことをつづったエッセイ本です。
上田さんの語りがメインですが、ページの端にご主人からのコメントが入っているんです。家を探しているときの悩みや引っ越しについて書いているとき、旦那さんは「仕事が忙しいときに勘弁して欲しい」とつぶやいていて(笑)。そのすれ違いがリアルでおもしろいんです。
このエッセイも、予定調和だけじゃないところがいいなと思っています。「子どもが独立したから、また夫婦二人で仲良く生活をたのしむべきだ」という一般的な視点だけでなく、「それぞれの人生も大事に進めていこう」といった視点も含まれています。これらの視点がエッセイの中に織り交ぜられているので、オリジナリティーが生まれています。
井上 コロナのせいもあるんでしょうけど、今は「こういうふうに生きればいい」という正解がなくなっているじゃないですか。だから、みなさんがそれぞれどんなふうに生きてきたのか、とても興味があります。
秋山 以前、取材で山奥で一人で暮らしているおばあちゃんの家に行ったとき、一般の方なのに、本当に美味しいものを出してくださったんです。そのひとにとっては当たり前の料理でも、私たちからしたら「そこで砂糖を入れるんだ」とか、そういう新しい発見があるんです。
—— この前、オオゼキでバナナハート(バナナの花)を買って料理をしてみたという方の記事を読んで、ふだん買おうと思ったことがない食材でも、こんなにバリエーション豊かな料理がつくれるのか!と感動したことを思い出しました。
井上 そういう、ふだん買わないものを買って挑戦してみるのも、予定調和ではなくクスッと笑えておもしろいエッセイになると思いますね!
「普通」を見つけるコツは、決めた文字数を毎日書き続けること
—— それでは、質疑応答の時間に移りたいと思います。ひとつ質問が来ているので、読み上げますね。
秋山 ネタは、探しちゃダメなんですよね。どんなことを書きたい方なのかわかりませんが、たとえば文字数を決めて、20日間にわたって毎日食べたものを記録してみるのはどうでしょうか。そうすると自分が好きな文章の書き方が3つほど見つかるはず。第1週はAのパターンで書き、次はBで書き、3週目はCで書き、4週目はフリー演技で変えてみる。そうすると、Dという新しいパターンが見つかるかもしれません。その次の月は、AとCを掛け合わせてみたり。それを続けると、自分のオリジナリティーが見えてくると思います。
井上 すごくハマっていることがあったら、それを深掘りして書くといいと思います。だれしも、自分の好きなことはあると思うので、毎日日記のように書いていきましょう。最初は三行でいいですし、Twitterに投稿するだけでもいいです。140文字や150文字、300文字など、決めた文字数を毎日繰り返し書くこと。100本ノックのように、書いているうちに上達していきます。自分に合った方法を見つけて、毎日続けていきましょう。
—— ありがとうございました!最後に、これから創作大賞に応募したいと考えている方々に、一言ずつメッセージをお願いしてもいいでしょうか?
秋山 (応募締め切りの)7月17日まで、あと1ヶ月を切りました。暮らしや料理、いま考えていることなどをぜひ投稿してください!メディア経験や実績のある方は、「こんなこともできるんだ」というような投稿をお待ちしています。初めての方も、あなたらしいキラリと光るものを期待しています。ふるってご応募ください!
井上 今回の創作大賞ではジャンルは問いません。読んで泣いたり笑っちゃったりするくらい、感情を揺さぶってくれるものを期待しています。たのしみにしています!
登壇者プロフィール
創作大賞のスケジュール
応募期間 :4月25日(火)〜7月17日(月) 23:59
読者応援期間:4月25日(火)〜7月24日(月)23:59
中間結果発表:9月中旬(予定)
最終結果発表:10月下旬(予定)
創作大賞関連イベントのレポート
⓪ 創作大賞説明会レポート
「フォロワーが多い人が有利?」「AIを活用した作品は応募できる?」など、寄せられた質問に全部回答しました。
① 富士見L文庫(KADOKAWA)が語る「いま読みたい作品」
『わたしの幸せな結婚』など人気の小説作品を抱える富士見L文庫にレーベルの特徴や、キャラクターの魅せ方などをお聞きしました。
② JUMP j BOOKS(集英社)が語る「いま読みたい作品」
『ジャンプ』とともに歩んできた小説レーベルであるJUMP j BOOKSに、お題として提示されたイラストの意図、イラストから物語を膨らませるポイントなどを伺いました。
③ 幻冬舎コミックス・文藝春秋コミック編集部が語る「いま読みたい作品」
幻冬舎コミックスと、文藝春秋コミック編集部に、コミックエッセイや女性向けのストーリー漫画を面白く魅せるコツを伺いました。
④ Palcy(講談社)・マンガMee(集英社)が語る「いま読みたい作品」
少女マンガや女性向けの作品を中心に掲載する、大人気マンガアプリ「Palcy」と「マンガMee」。「ヒキが強いとはどういうこと?」「エモで読者を引きつけるには?」など漫画原作に求めることをお聞きしました。
⑤ 朝日新聞出版 書籍編集部・ポプラ社 文芸編集部が語る「いま読みたい作品」
朝日新聞出版 書籍編集部と、ポプラ社 文芸編集部に、ジャンルや時代をこえ多くの人を惹きつけるための作品づくりのポイントをうかがいました。
⑥ 幻冬舎が語る「いま読みたい作品」
単行本のみならず、新書や実用書、写真集、雑誌、コミックスなども刊行する幻冬舎に、魅力的なエッセイに共通する要素を深掘りしてお聞きしました。
⑦ 光文社 文芸編集部が語る「いま読みたい作品」
紙の雑誌『小説宝石』と、電子雑誌『ジャーロ』を発行している光文社文芸編集部に、ミステリー小説の描き方をうかがいました。魅力的なキャラクターをつくる方法やミステリーの原則などもお聞きしています。
くわしくは、創作大賞 特設サイトをご覧ください。
text by 平野太一