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Palcy(講談社)・マンガMee(集英社)が語る「いま読みたい作品」──創作大賞RADIOレポート④ #創作大賞2023

4月25日にスタートした、日本最大級の投稿コンテスト「創作大賞」。第2回となる今回は15の編集部に協賛いただき、優秀作品は書籍化や連載など、クリエイターの活躍を後押ししていきます。

「参加しているのはどんな編集部?」「どんな作品を応募すればいいの?」というみなさんの疑問や悩みにお答えするため、協賛編集部をお招きしたTwitterスペースを毎週木曜日に配信中。6月1日はPalcyパルシィ編集部(講談社)の安達南菜子あだちななこさんと、マンガMeeミー編集部(集英社)の大森瑛子おおもりえいこさんにご出演いただきました。

創作大賞では、Palcyは「漫画原作部門」の応募作の審査に、マンガMeeは「漫画原作部門」「コミックエッセイ部門」の応募作の審査に参加いただきます。

▼ 配信のアーカイブは下記よりお聴きいただけます。

PalcyとマンガMeeって、どんなレーベル?

Palcyオリジナル作品は20〜30代女性がターゲット

——Palcyについて説明をお願いいたします。

安達さん(以下、安達) Palcyは講談社とpixivが協力して立ち上げた女子向けの漫画アプリです。少女漫画はもちろん、異世界ファンタジーやBLなど幅広い分野の作品を配信しています。

メインユーザーは10代〜40代の女性ですね。ただし、アプリオリジナル作品に関してはおもに20代〜30代をターゲットにしています。

Palcyの特徴は、雑誌の発売と同時に最新話がリアルタイムで読めるサイマル配信という方法をとっていることです。Palcyオリジナル作品以外に『なかよし』『別冊フレンド』『デザート』『Kiss』『BE・LOVEビーラブ』、そして各電子雑誌の作品が、雑誌発売と同時に読めて読者の方々にも大好評なんです。

サイマル配信だと、アニメ化が決定している『お嬢と番犬くん』や『うるわしの宵の月』が人気がありますね。

最近のアプリオリジナルのヒット作では、大人向けの少女漫画『恋ヶ窪くんにはじめてを奪われました』がとても人気があります。フェチ度高めだと『私とこわれた吸血鬼』、ちょっぴり刺激はありますが等身大の大人の女性に寄り添った『カラダ、重ねて、重なって』も人気です。

マンガMeeの読者層は10代〜20代がメイン。縦読み漫画にも積極的

——マンガMeeについて教えてください。

大森さん(以下、大森) マンガMeeは、累計1,300万ダウンロードを超える、集英社の有名少女漫画を掲載する女性向け漫画アプリです。『りぼん』『マーガレット』『別冊マーガレット』『ココハナ』『Cookieクッキー』などで連載している少女漫画や、マンガMee編集部オリジナル作品も掲載しています。連載が終了しても人気が続く名作もピックアップしており、いろんな年齢層の読者にたのしんでもらえるよう配信しています。

読者の年齢層は10代〜40代と幅広いのですが、ほかのマンガアプリと比較して目立つ違いは、10代〜20代の若い読者が多いところでしょうか。そのなかでもライトな読者層、YouTubeも観るし、InstagramもTikTokもやるし、スナックコンテンツとしてマンガもたのしむというような、いまどきの読者が多いです。

代表作品としては、ドラマ化もされた『サレタガワのブルー』、これは縦読み漫画で、マンガMeeがはじまったときに大ヒットしてレーベルを引っ張ってくれた作品です。同じくドラマ化した『青春シンデレラ』は学生に戻って青春をやり直すタイムスリップもの。いま紙も爆売れしているBL作品『誰か夢だと言ってくれ』や、獣人と人間の種族を超えた恋でちょっとHな要素もある『キミと越えて恋になる』も人気があります。

漫画アプリは自由度が高く、チャレンジできる土壌がある

——レーベルの強みやヒット作の共通点について教えてください。まずはPalcyからお願いします。

安達 アプリなので読者層が限定されません。そのため、作品の自由度が高いところが強みだと思います。BLやTL、少女漫画も異世界ものなど、時代も舞台も超えて、いろんなジャンルがあるのが特徴のひとつですね。

作家は新人も多いですし、経験豊富な方もいらっしゃいます。ほかの編集部ではちょっとできないような作品にチャレンジしたい方もいるので、ジャンルの幅が広いぶん、作家の層も厚いと思います。

これはPalcyが、というよりも弊社の女性向け漫画編集部全体に言えることですが、作家の好きなものを一緒につくりたい熱意を持った編集者が多いんです。なので、好きなものを描きたいのに、どこに載せればいいかわからない方は、ぜひPalcyに気軽に持ち込んでみていただきたいです。

——Palcyのヒット作の共通点は?

安達 冒頭で紹介した作品以外では、異世界ファンタジーもすごく人気があるジャンルで、『王妃様は離婚したい』『役立たず聖女と呪われた聖騎士』などの溺愛系ファンタジーが人気です。

共通点は恋愛が主軸であること。そして、寝る前にひとりでこっそり読んでいる読者も多いからか、ちょっと刺激があったり、明日も頑張ろうと思ってもらえるような気持ちが明るくなる作品が人気があります。

——主人公や登場人物のキャラクターの共通点や傾向は?

安達 ヒロインが共感しやすい、応援したくなるキャラクターであることです。たとえば、ヒロインがオタク属性を持っていたり、ちょっと奥手だったり、「私にもそういうところがある!」と読者に思ってもらえることが重要なポイントですね。ここまでで例に挙げた作品のヒロインは、みんなつい応援したくなってしまう子ばかりです。

——マンガMeeの強みやほかのレーベルとの違いを教えてください。

大森 レーベルの強みは、ジャンルが限定されないところですね。たとえば『りぼん』や『別冊マーガレット』なら「学園もの」などシチュエーションや舞台がわかりやすい作品が多く、年齢層も限られていますが、マンガMeeは広い年齢層の読者がいるので、なんでも挑戦できる媒体だと思います。

恋愛を描くにしても、学園ものやオフィスもの、Hなものでもケモノ、不倫、BL、異世界など、どんなジャンルでも挑戦できます。アプリ漫画だからこそ、横読みと縦読みの両方を掲載できるのも大事な要素だと言えます。

——マンガMeeのヒット作の共通点や傾向は?

大森 『サレタガワのブルー』の連載がはじまったのは2018年ですが、そのころは不倫漫画が流行っていて、主人公の女性が不倫される側という作品が多かったんです。でもこの作品は、イケメンの優しい男性が、ひどい妻にひどい不倫をされてしまう話で。女性向け漫画って、主人公を女性にしろと言われることが多いと思うんですけれど、これは主人公が男性なんです。でも応援したくなる。もうやっちまえみたいな、わかりやすいスカッと要素もよかったです。

『誰か夢だと言ってくれ』はBL作品ですが、入口がライトで少女漫画的なかわいい感じだからこそ、ハードルが低いのが特徴です。マンガMeeはBL漫画を取り扱ってはいるけれど、BL専門誌ではないのでBLにすごく明るいわけではない読者でも普通に読める。

弊社の少女漫画全体でよく言われるのが、感情移入しやすい作品にすること。Palcyさんも同じだと思いますが、やっぱり読者が応援したい、気持ちがわかる、と感情移入できる”わかりやすさ”があると、読者も入りやすいかなと思います。

創作大賞で期待すること

——今回、創作大賞に初参加ということで、求める作品像や参加の理由をおうかがいします。マンガMeeからは「ヒキが強い」作品を、とメッセージをいただきましたが……。

大森 はい。「ヒキが強い」だけだと意味が広くて難しいと思うので、2つに絞って話しますね。ヒキのつくり方としては、キャラクターでつくっていく方法と、ストーリーでつくっていく方法の2つがあると思います。

キャラクターだとしたら、そのキャラクターの先をずっと見ていきたい、大好き!みたいな気持ち。これは強いヒキになります。いま担当してる作品『おとなの恋は、やぶさかにつき。』で説明すると、これはオフィスラブの話で、風邪で弱っている男性上司の家に行ったら、その上司がちょっと弱っていて、かわいくてキュンとしちゃう感じなんですね。上司のキャラクターが、すごくかわいいのに不意打ちでグイグイくる。もう、画面から出てきてくれ〜!と叫びたくなるキャラクターの強さ。あと、主人公の応援したくなる頑張り屋さん、というキャラクターも、そのままヒキの強さに繋がります。

ストーリーの場合は、たぶん小説とかを書く方は「ストーリーで引く」という表現のほうがわかりやすいかと思います。『死にたい人妻と溺愛強盗』を例にすると、主人公は結婚しているけれど夫とうまくいっていなくて、隠れてピルを飲んでいる。ある日、働いている銀行に強盗が来るんですが、その強盗犯の男と一緒に心中しに行くんです。ここまでを冒頭に持ってきて、このストーリーって一体どうなっちゃうの!?という期待感を重視して、ストーリーのヒキをつくっています。

ヒキという言葉のイメージで最後に入れたくなりますが、なるべく前半のほうに入れてあげる。ヒキ=つかみ、みたいなもの。ひとは最初がおもしろくないと、作品から抜けていってしまうんです。最初のほうにガツンとインパクトのある要素がほしい。これが、私たちが考える「ヒキの強さ」です。

——マンガMeeは「漫画原作部門」のほか「コミックエッセイ部門」にも参加されます。コミックエッセイに求める作品像を教えてください。

大森 女性が読者なので、女性の日常生活の感情をコミカル、またはリアルに描いた作品がほしいと思っています。コミックエッセイのウリって「私の身の回りで本当に起きるかもしれない」と読者に思わせるところなんです。

ネタとしては、育児や友だちの話など、身の回りのことを書いてくれればいいですね。その切り取り方できっとおもしろくなります。フィクションでストーリーをつくっていくよりも、ベース(日常生活や感情)の解像度が高くなるのがコミックエッセイの強みだと思います。

完全なるコミックエッセイとは違うのですが、野原広子先生の『妻が口をきいてくれません』がそう。タイトルのとおり、夫が帰ってきても妻が一言も口を聞いてくれない設定で、夫のエピソードがめちゃくちゃリアル。奥さんにカレーを出されるんですがスプーンがなくて、「ママ、これスプーンなしで食べるタイプ?」とか言っちゃうんです。「もう、最悪じゃん!」という気持ちから入る(笑)。全部ではありませんが、実話ベースなのが野原さんの作品のおもしろみです。そのエピソードだけで、読者が共感することが大事だと思います。

——マンガMeeが創作大賞に期待していることはなんですか?

大森 ずっと漫画を描いてきたり、脚本づくりに携わってきた方からの投稿ももちろんうれしいんですけれど、noteには、さまざまな職歴や経験をしているひとが集まっているからこそ、そういう方からいろんなアイデアがほしいと思います。

セオリーにのっとって絶対に起承転結をつけなければ、ということはありません。そのアイデアさえおもしろければいいので、こんなに特殊な経験をしたことあります、みたいなことを、コミックエッセイや漫画原作で見たいと思っています。

——Palcyは、具体的にどんな作品を求めていますか?「エモい瞬間・関係を描いたもの」というメッセージをいただきましたが……。

安達 今回「エモい」という言葉はノスタルジックという意味ではなくて、元々の「感情が動いた」という意味で捉えていただければと思います。ですので、「心がついつい動かされちゃった瞬間」をぜひ盛り込んで書いていただきたいです。

先ほど挙げた異世界ファンタジーの『王妃様は離婚したい』を例に挙げると、この作品はヒーローが究極のクーデレで。王妃のヒロインは、夫である王様がいつも冷たい態度だから離婚したいと告げるんですが、そしたらなぜかヒーローはヒロインを追いかけてくるようになる。今まで冷たかったのに急にデレてきたりして、それでギュンと胸をつかまれちゃうんですよね~。きっと作家さんも、ヒーローのことを「可愛すぎる!」と思いながら描いているはず。そんなふうに作家さんの愛が、そして登場人物たちの愛が溢れすぎちゃった瞬間や関係を、ぜひ描いてほしいですね。

——Palcyが創作大賞で期待していることを教えてください。

安達 noteにはプロの小説家がたくさんいらっしゃいますが、そうではなくて、普段のご自身の生活やお仕事のことなどを、エッセイや日記のようにつづっている方も多くいる印象です。そんな方たちが、ちょっと漫画の原作を書いてみようかな、と気軽な気持ちで応募してくれたらうれしいなと思います。ぜひご自身のこれまでの経験を生かして書いてほしいです。もちろん本業の方も大歓迎ですが、審査はプロか否かは全く関係なく見させていただきますので!

女性向け作品の物語のつくり方

「横軸」となる人間関係と心理描写が大切

——両レーベルとも女性をターゲットにした漫画アプリです。男性向け作品と比較したときに、少女漫画を含めた女性向け作品ならではの特徴を教えてください。

大森 わかりやすくいうと、少年漫画はストーリーという「縦軸」を重視することに特化しています。それに比べて少女漫画は人間関係、つまり「横軸」をメインにしていることが多いと思います。

たとえば『ONE PIECE(ワンピース)』だったら、主人公のルフィが海賊王になるところが縦軸で、バトルなどをしつつ展開していきます。少女漫画の『花より男子』の場合は、基本的に主人公のつくしが相手役の道明寺とくっつくまでの、横軸の話がメインになります。これが少年漫画と少女漫画の違いだと思います。

女性向け漫画は、気持ちの繊細な揺れ動きの描写が大切なんですね。女同士だからこそあるジリジリしたもの……それは恋愛だけではなくていじめとか、友達同士や家族とか。そういうのも女性向けの漫画作品になるので、横軸を重視してほしいです。

安達 「気持ち」の描写は大事です。女性は比較的コミュニケーション能力が高いひとが多いので、言葉で伝えてほしいという気持ちが結構大きいと思います。主人公のいまの気持ちを知りたいし、ヒーローからもちゃんと言葉にして告白してもらいたい。

女性が読んで共感できることも大切です。主人公が「なんだこいつ嫌な女だな」と思われてしまうキャラクターだと、それだけで読者は読む気が失せてしまうので、女性が応援したくなる魅力的なキャラクターをつくってほしいですね。

あとやっぱり、ご褒美がほしい。平たくいうとイケメンにときめかせてほしいです(笑)。ときめきに限らず、異世界作品だったらざまぁ展開にスカッとするとか、コメディならげらげら笑えるとか……。プラスの感情が生まれるようなご褒美が一話ごとに待っていると、読者も離れないと思います。

恥ずかしがらず、自分の性癖を掘り下げよう

——読者を惹きつける物語をつくるコツを教えていただけますか?まずはPalcyから、エモい作品をつくるにはどうしたらいいでしょう。

安達 自分の性癖を掘り下げてほしいですね。感情を動かすような作品って、やはり作家の「好き」や「萌え」が詰まっているんです。自分の性癖を掘り下げて、こういうのが好き、グッときた、という瞬間をたくさんストックしておけば、作品に勝手に反映されていくんじゃないかなと思います。

大森 作家は恥ずかしがらないでほしいですね。恥ずかしいところほど、出していったほうがいい。

安達 そうですね!心のパンツを脱いでほしいです(笑)もちろん編集者も脱ぎたいと思ってるので、お互い素っ裸で語り合いましょう!(笑)

——性癖は必ずしも恋愛でなくてもいいんですよね?

安達 はい。モノでもいいです。たとえば『悪食令嬢と狂血公爵』は魔物を料理して食べる、ちょっと変わった令嬢のお話ですが、毎話違った魔物が登場するんです。魔物の姿形・能力を考えるのって一種類でも難しいことだと思うので、きっと原作者の「好き」が大きいからこそできることですよね。そういう部分を深めるのもとても大事です。

——マンガMeeは「ヒキが強い作品」がほしいとのことですが、そういう作品のアイデアはどうやって出しているんですか?

大森 「ヒキ」は具体的にいうと「山(場)」なので、私が作家と一緒に作品をつくっていくときは、「このヒキは広告にしやすいよね」と考えていきます。それは、原作と作画が分業制のスタジオ形式の作品であってもそうです。

アプリ漫画は広告を打って、そこで読者を増やすことが大事なので、漫画原作は「ここは絶対、広告でバズるぜ」という気持ちで書くといいと思います。InstagramやTwitterの広告をイメージしていただければ大丈夫です。

たとえば『ミスコン炎上宣言!』は、美しいけれども難ありな4人の女性が戦う話で、縦軸(ストーリー)はミスコンがはじまって終わるまで。あとはキャラクターの殴り合いしかなくて、みんな妙に濃密に炎上していく(笑)。でも、事件で引くわけではないんです。

キャラクターの4人がぐちゃぐちゃになって、相手の弱みを引き出すためにこんなことをしちゃう、みたいなところを描く。人間関係で話のヒキをつくるんです。キャラクターも「おもしろすぎるからもっと見たい」や「こいつ地獄に落ちろ」と思うキャラクターをつくって、気持ちで引けるようにしています。

『おとなの恋は、やぶさかにつき。』では、毎回キュン要素、つまりご褒美を入れて読みたくなるようにしています。平穏なオフィスラブや学園ものの場合、何かが起きる事件って、学園祭とか体育祭とか学校行事くらいしかないんですね。なので、キャラクター同士の気持ちで事件が起きるように意識しています。

メンヘラうさぎはヤンデレ狼に溺愛される』は、”メンヘラ”や”ヤンデレ”が強いフックになる言葉なので、事件をつくっていくタイプの話になると予想していたのですが、「このキャラクターは次に何をやらかしてくれるの⁉︎」と思わずにはいられない不穏さで作家がキャラクターを膨らませてくれました。

ですので、キャラクターも舞台も、描きたいベースを大事にしつつ、読者にこういう気持ちで次を読んでほしいという意識を重視することで、ヒキをつくることが大切です。

冒頭に自分のやりたいことを全部入れる

——漫画原作を投稿するにあたって、つくり方のコツを教えてください。

安達 冒頭のつかみがものすごく大事になります。電子書籍の漫画では、読者は最初の10ページくらいを試し読みします。ということは、ダウンロードサイトに掲載された数行のあらすじと試し読みの数ページ、書影のイラストで買うか買わないかが決まってしまいます。なので本当に出し惜しみせず、漫画になることを意識して、冒頭でガッツリと自分のやりたいことや設定、性癖を入れるのが重要なポイントです。

また、漫画家や編集者が思いつかないようなキャラクターを生み出していただけたらとてもうれしいですね。ただそうはいっても、あまりにも突拍子のないキャラクターだと読者の共感を得られないので、現実に”いそうでいない”絶妙なところを狙ってもらえるといいのかなと思います。

最後にもうひとつ。漫画には動きがあるので、心の描写だけでなく体の動きも書いてほしいです。脳内で演劇をやっている感じで書いていただくと、私たちもスムーズに作画者にイメージをお伝えできるので、すごくありがたいです。

——文章で物語を書くとき、小説と漫画原作を比較して、構成や話の展開に異なる点などはありますか?

大森 小説の場合は神様の視点、つまり第三者の視点になるんですが、少女(女性向け)漫画は基本的に主人公の視点で進んでいきます。なので、小説をコミカライズするときは絶対に主人公目線になるよう調整するんですが、最初から主人公目線だとコミカライズしやすいんですね。

主人公視点で書くことでモノローグも増えていくし、原作者もあまり意識せずに主人公の気持ちを書きやすくなると思います。コミカライズを担当した『モラルハザード』という小説は3人の女性主人公が出てくるんですが、代わる代わるそのひとの視点に変わっていくので、すごく漫画にしやすかったです。

——視点移動もあまりしないほうがいいんですよね。ひとつの話のなかでは、このひとの視点だよ、というわかりやすさが重要でしょうか。

大森 そうですね。漫画も結構そう言われるので、視点はあんまり移動しすぎないほうがいいと思います。わかりやすいのが重要です。

——最後にストーリー漫画とコミックエッセイのつくり方の違いを教えてください。編集者が一番重視しているポイントはどこですか?

大森 コミックエッセイは実際にあったことをベースにしていることが強みですが、それには、種類が2つあると思っています。

ひとつはネタがすごくキャッチーなもの。広告をつくりやすいんです。たとえば「夫の不倫相手が親友でした」という名の作品なら、タイトルだけで「なにそれ!」となる。こういう作品は強いし、ほしいです。

もうひとつは、作家のやり方次第ですが、普通の出来事でもおもしろく切り取る方法。東村アキコ先生の『ママはテンパリスト』は、普通に子育てをしているはずなのにお母さんの反応があまりにもおもしろくて。描き方がおもしろいんですね。

なのでネタ選びと、切り取り方は大事だと思います。

あと、漫画原作もコミックエッセイも、わかりやすさのハードルを本当にめちゃくちゃ下げてほしいと思っています。漫画も小説も読むときは「読むぞ」とエネルギーを使うので、そのエネルギーを使う力を下げてほしいんです。

ではどうするのか。まず、話の軸がたくさんあるとわかりづらいので、一本化するのがおすすめです。その場合、まず「あおり」をつくっておく。

ここでいう「煽り」とは「あらすじ」のこと。いい作品ってあらすじが簡潔につくれて、◯◯が××する話だとわかるんです。先ほどの『モラルハザード』の場合は「セレブママの闇堕ちバトル」、『ミスコン炎上宣言!』は「秘密を抱えたキラキラ女子のキャンパスバトル」とわかりやすい。

自分で煽りを設定しておくと指針ができます。指針という軸を一本つくっておくと、それに向かって物語を書くことができるので、漫画原作もコミックエッセイもつくりやすいと思います。

——ゴールを決める、と。横軸を重視しつつ縦軸もちゃんと決める、縦軸に沿って横軸をつくる、ということですね。最後に視聴者、創作大賞に応募してくださる方へのメッセージをお願いします。

安達 新しい切り口の、読者の心が動く作品を拝見できるのをたのしみに待っていますので、ぜひどしどしご応募ください。また、Palcyは6月5日に大リニューアルを行い、よりたのしく使いやすいアプリになりました!この機会に、まだの方はぜひアプリをダウンロードいただき、掲載作品でたくさん「エモ」を浴びてもらえたらうれしいです。

大森 いろんなことを言いましたけれど、本当になんでも大丈夫です。漫画原作者は漫画を描く必要はないので、作画のことはあまり考えないで、あなたなりの切り口でかたちにして、ご応募いただければと思います。

質疑応答

Q1.刺激的なシーンがある小説でも載せていいのでしょうか。noteとして問題はありませんか?

戸田(創作大賞2023運営・noteディレクター) こちらの質問は運営から回答させていただきます。noteには利用規約があり、あまりに性的だったりR18に該当するようなコンテンツは掲載いただけない場合があります。漫画原作やコミックエッセイに限らず応募作品すべて、利用規約に触れない程度で入れていただければと存じます。詳しくは、noteの「コミュニティガイドライン」もご覧ください。

安達 漫画原作部門で提出していただくのは3話までなので、そこまでは匂わせて、その後、刺激的になるのは問題ないと思います。

Q2.あらすじに1話、2話、3話のリンクをはって応募してもいいですか?

戸田 こちらも運営から回答させていただきます。運営としては、読者にも審査員にも、あらすじと本編を読んで、もっと読みたいと思ってほしいと願っています。できれば、あらすじと1話はセットで、以降はリンクを載せていくかたちにしていただくほうが、審査員のみなさんも読みやすいと思います。

Q3.受賞後はどういう流れで作品化へ向かうのでしょうか?(漫画原作の場合)

安達 まず作画者が決まり次第、原作者に許可をいただきます。次にキャラクターデザインのためのイメージ資料を準備いただきます。芸能人の◯◯さんのような雰囲気とか、ファンタジーなら世界観や衣装、髪の色などです。その後、漫画家から届いたネームを毎話チェックしてもらうのが、主な流れになります。

大森 うちも同じ流れで進みますが、マンガMeeの場合は、原作の要素を見て、まずは縦読みか、横読みかを考えますね。縦読み漫画はスピード感重視。読む速度が横読み漫画より時間がかかるぶん、滞在時間が長く感じるんです。1話の分量が横読み漫画と同じでも、縦読み漫画は話が進んでいないという気持ちにさせてしまう。なので、最初に要素をみて縦か横かを決めます。

——今回応募していただくときも、縦読み、横読みを念頭に入れて書いていただいてもいいですよね。

大森 はい。縦読み漫画はカラーなので、だからこそ映える作品もありますね。異世界など色を使う作品はカラーにすると綺麗です。

Q4.いま漫画家に読んでほしい、おすすめの漫画やコンテンツはありますか?

安達 もちろん勉強はしてほしいですが、引きずられてしまうこともあるので、あえて漫画をたくさん読んでほしいとは思いません。でもエンタメには触れてほしいですね。映画や本、ドラマとか、そのなかにネタがあるかもしれないですし。最近だとインド映画『RRR』ですね。あの詰め込み方はハンパない。物語をつくるときは出し惜しみしないでほしいと言いましたが、それが体現されていて、気持ちいいところの連続なので、おすすめです。

大森 やはりジャンルは絞らず、いろんなものに触れてほしいですね。強いていうならNHKの朝ドラや韓国ドラマなどの連続ドラマでしょうか。連続ドラマって、次を見せたいという気持ちが強いので、連載漫画とつくり方や盛り上げ方が似ているんです。参考になると思います。

Q5.少女漫画は恋愛要素がないとダメですか?

安達 なくても大丈夫です。若い読者に訴えかけられるような、若い女の子がたのしんでもらえるものがあればいいと思います。友情ものや家族もの、シスターフッドものとか。いろんな切り口をぜひ拝見したいですね。

大森 もちろん恋愛要素があると女の子は喜びますが、女子の心が動かせればなんでも大丈夫です。戦ってもいいですし。

安達 『プリキュア』とか『セーラームーン』みたいなのもいいですよね。観て育っているので。

Q6.視点について。映画的にカメラが撮っているような視点は、漫画ではNGですか?

大森 ダメではないですが、漫画にするときにカメラが撮っているような視点だと感情移入がしづらく、だれが主人公かわからなくなるんです。だから原作は神様の視点でいいんですけれど、漫画にするときは、そうでないほうがいいです。でもマストではないです。

——だれの視点の話なのかをはっきりさせつつ、カメラの視点で書いていただくのがいいかもしれませんね。

登壇者プロフィール

安達南菜子あだちななこ
Palcy編集者。フリーランスとして異世界作品やBLなど女性向けコミックの立ち上げを多数経験し、2022年11月に講談社へ入社。現在はPalcy編集部にてアプリオリジナル作品の企画を立案中。ファンタジーが好き。

大森瑛子おおもりえいこ
マンガMee編集者。主な担当作品に「ミスコン炎上宣言!」「おとなの恋は、やぶさかにつき。」「時をかけるワイフ」「女神のついた嘘」「君の心臓を抱きしめて」「死にたい人妻と溺愛強盗」等。横読みマンガだけではなく、スタジオ形式の縦スクロールマンガなど、数々のマンガ作品を担当。

創作大賞のスケジュール

  • 応募期間     :4月25日(火)〜7月17日(月) 23:59

  • 読者応援期間:4月25日(火)〜7月24日(月)23:59

  • 中間結果発表:9月中旬(予定)

  • 最終結果発表:10月下旬(予定)

創作大賞応募スケジュール

創作大賞関連イベントのお知らせ

【毎週木曜20:00〜】創作大賞RADIO
5月11日から週替わりで協賛編集部の担当者が出演し、求める作品像や創作のアドバイスなどをお話しします。

開催済みイベントのレポート

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「フォロワーが多い人が有利?」「AIを活用した作品は応募できる?」などの質問に回答しています。

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詳しくは、創作大賞 特設サイトをご覧ください。

text by 本多いずみ

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