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『虫捕る子だけが生き残る 「脳化社会」の子どもたちに未来はあるのか』_小学館101新書_池田清彦,奥本大三郎,養老孟司

虫活礼賛がやりたくて…

 虫活は楽しい。それは間違いないのだが、その喜びはやらなければわからない、なかなか概念化できない。それを賛美する言葉はないものか。そう思って本を探してみた中で、最初に本書を手に取った。

 3人での座談を中心にページが進められるが、多くは虫について好き勝手に話しているだけでタイトルにあるような虫活の教育的価値にはあまり触れられていない。

  少しがっかりしていたところではあったが、本の後半部分に虫活賛美をする上で参照したい箇所があったのでそこに触れたい。 

今年の7月に捕まえた国産カブトムシ。取れすぎたので近所の子供達に配った。

〈むしむし探し隊プロジェクト>

 本書の著者である養老孟司・奥本大三郎・池田清彦の3人は子供向けのプロジェクトを監修している。プロジェクトの目的は子どもたちに虫を好きになってもらったり、虫捕りを通じて自然に親しませたりすることである。

 2008年夏、セミの鳴き声についての調査を実施。全国の隊員は、セミの鳴き声を聞いたら、それをインターネットで報告する。対象となるセミはニイニイゼミ、クマゼミ、ミンミンゼミ、アブラゼミ、ヒグラシ、ツクツクボウシの6種で、いつ、どこで聞いたか、インターネットで毎日入力する。
 
 ウェブサイト上の 「ニッポン全国セミマップ」は、隊員が入力したセミのデータがリアルタイムで日本地図上に表示される仕組みとなっていたようである。結果、データ数は5万件に上ったという。

 活動を経て、セミの鳴き声を聞いて行った自分の報告が結果として現れることが面白さのひとつであると指摘しつつ、本プロジェクトが虫や自然、学問に興味を持つきっかけにしてほしいと考えている。

 また、セミの鳴き声が聞こえましたという報告だけでなく、実際に自分の手で捕まえて報告するようになることも望んでいる。

  虫捕りには、創意工夫をする、勘を働かせる、気配を感じ取る、じっと忍耐する、そしてタイミングをはずさず俊敏に動く、などのクリエイティヴな要素が詰まっている。頭と勘と体を駆使して、生きた虫を捕る。加えて絵を描いたり、標本を作ったりすれば美意識や手先の器用さなども養われる。

 また捕まえたり飼育したししている虫について自分の目でよく観察する。そしてその虫について文献を調べることから、文章を読み、考え、不思議に思い、学問の世界に入っていくということもある。

 これが科学の第一歩になるし、本を読むことや文章を書くことにもつながるという。虫活には捕る、集める、調べる、研究するなどの多様で連鎖的な楽しみ方があるということが言語化できる。

 「脳科学から見た学習とは、「再代入を繰り返しながらくるくる回ること」で、数ある遊びの中でも虫捕りがなぜいいかというと、それはほぼ理想的に脳が回転するからです。感覚から入って、計算して、その結果が運動として出て、出た結果が再入力される。虫を見て、「いた!」と思ったら、筋肉を動かして、捕まえて、自分で調べて、標本を作って、考えて、また虫を見て……という具合に、インプットとアウトプットが連鎖しながらくるくる回り続ける。」

『虫捕る子だけが生き残る 「脳化社会」の子どもたちに未来はあるのか』

追記


 実は中学2年生の教科書には、「クマゼミの増加の原因を探る」という昆虫学者による書き下ろしのテキストがあり、大阪市内でクマゼミの増加について調べるために、筆者は6年間かけて大阪のあらゆる場所のセミの抜け殻を拾い集めて種類ごとの分布を調べたようである。

 1960年代の高度経済成長期から84年にかけては道路がたくさん舗装されてきた。これに際して、アブラゼミの幼虫がうまく穴を掘れないのに対し、クマゼミの幼虫は、硬い土を掘る力が他に比べて高く、生存におけるライバルが減ったので自ずとクマゼミが多くみられるということになったといった内容が書かれている。

中学2年生の教科書『光村図書・2年』書影

 小学生時分に昆虫採集に明け暮れたとして、それが学校の授業でも似たような昆虫の生態に関わる文章が出てきたとしたら、必然的に興味を持つことになるだろう。

 単にテストに出るから、学校の授業は大人しく聞かなくてはいけないからといった「やるべき」勉強の次元を脱し、好奇心出発で始まった虫活が、研究報告書としてまとめあげられ、それが教科書に掲載されて次世代に影響を与えるその営みに想像力を働かせる時、「やってみたい」学びに昇華する可能性を感じざるを得ない。

 というわけで本稿を虫活礼賛の第一歩としたいと思う。

著者:

池田清彦(1947年-,生物学者)、奥本大三郎(1944年-,仏文学者,ファーブル昆虫館館長)、養老孟司(1937年-解剖学者)

『虫捕る子だけが生き残る 「脳化社会」の子どもたちに未来はあるのか』


参考:


「クマゼミの増加の原因を探る」光村図書・2年

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