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グレタさんについて知っておきたい3つの顔

グレタさんについて書くことは、難しい。

グレタさんを称賛すれば、「人間よりも地球を優先するのか」と思われるし、グレタさんを否定すれば、気候変動クラスタの人たちから「あなたは科学を信じないのか?」と抗議されるだろう。

そして地球温暖化についてよく知らない・無関心な人にとっても、グレタさんはすこぶる評判が悪い。「なんか怒った顔した女の子だよね。あの子、大丈夫なの?」という認識に留まっているのが実情だと思う。

世間的に認識されているグレタさんのイメージはこれだ。

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2019年9月、国連気候サミットでのスピーチで「How dere you(よくもそんなことが言えますね)」と政府首脳を批判するグレタさん

グレタさんを称賛するか、それとも踏み絵のように踏むか。
これが、グレタさん登場以降の地球温暖化問題の新たな分断である。

この記事では「グレタさんは○○である」という3つの説(側面)を紹介することで補助線を引き、グレタさんの本質を解明していきたいと思う。

①グレタさんは「原作版のナウシカ」である説


自然を守る心優しき人間を想像するとき、あなたはどんな人物が思い浮かぶだろうか。自然を愛し、人間も愛し、誰にでも優しく、母性的で博愛で、献身的で、勇敢で───要するに「ナウシカ」ではないだろうか。

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宮崎駿のアニメ映画『風の谷のナウシカ』でのナウシカは、母性的な優しさを随所で見せる。キツネリスに噛みつかれたときも「ほら、怖くない」と優しく受け入れ、幼生の王蟲を「殺さないで」と泣きながら懇願するシーンはあまりにも有名だ。ラストシーンの、自己犠牲によって人と王蟲の両方を救おうとする姿は「巫女」そのものであり、あるべきヒロイン(ヒーロー)の理想像のようだ。

何よりナウシカは人間にも優しい。腐海に触れた影響で醜くゴツゴツになった老人の手を優しくさする。老人たちは言う「わしらの姫様はこの手を好きだと言うてくれる。働き者のきれいな手だと言うてくれましたわい」と。

果たしてグレタさんは、温室効果ガスを大量に出している国の首相や、炭鉱で石炭を掘る労働者に同じことが言えるだろうか? 

「うわぁ〜、この手が大量のCO2を排出しているんですねー」

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と、皮肉たっぷりに言うのでは? と邪推する人もいるかもしれない…。

だが・・・ここまでは「アニメ版のナウシカ」の話だ。

アニメ版は原作漫画の全7巻のうちの2巻までの話であり、続きのストーリーがある。ネタバレ防止のため伏せるが、最終的にナウシカは巨神兵を操って○○○を滅ぼす。あの巨神兵を操って滅ぼすのだ。とんでもない女である。ちなみに敵や融通の効かない大人相手に悪態をつくことも茶飯事だ。

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原作版のナウシカはすさまじい野心を持っているが、それはグレタさんも同様なのだ。温室効果ガスを排出する社会を終わらせて、新しい秩序(持続可能な社会)を目指す、というとんでもない野心を持っている。

エコというよりエゴ──「現人類をこの地球で末永く生き長らえさせる」という強いエゴである。周囲には狂気にも映るだろう。肝心なのは、その狂気は深いところで人類愛に根ざしていることだ。

グレタさんは誰にも愛想よく、自己犠牲によって物事を解決しようとするアニメ版のナウシカではない(地球温暖化は自己犠牲で解決できるほど簡単ではないのだ)。目的の達成のためには、反発や体裁も気にしない「原作版のナウシカ」なのである。

②グレタさんは「忌野清志郎」である説


歴史上を見ても、環境保護を訴える人は定期的に現れてきた。
『沈黙の春』で化学農薬の危険性を初めて告発したレイチェル・カーソンがそうであるし、1992年の環境サミットに呼ばれたセヴァン・スズキさん(当時12歳)もかつて「伝説のスピーチ」で話題となった。

グレタさんが気候変動への抗議デモを始めたのは、15歳のときだ。
「無垢な子ども」として扱うにはやや年を取っており、「成熟した大人」として扱うにはまだ若すぎた。それゆえに世界中から多くの批判を浴びた。

しかし、批判にめげることはない。スピーチや書籍を読めばわかるのだが、グレタさんの内面はかなり「ロック」なのである。決して信念を曲げず、体制側に媚びず、批判を恐れず、ひたすらに行動を続ける。

だから、私たちが「スウェーデン生まれの少女」という【暖炉の前で編み物をしながら紅茶を飲んでいる】ようなバイアスで彼女を捉えようとすると、そのイメージからはみ出た部分がそのままアンチテーゼになってしまう。

ここでわかりやすく、グレタさんの中身が日本のロックスター「忌野清志郎」だと思えば大いに合点がいくのである。下表の通り、グレタさんと忌野清志郎の間には多くの共通点がある。

グレタpp


忌野清志郎は「キング・オブ・ロック」の異名を持つミュージシャンで、RCサクセションのボーカルとして後世に大きな影響を与えた。ソロ名義での活動や、坂本龍一とコンビの「い・け・な・いルージュマジック」も有名だ。今もセブンイレブンのCMで彼のカバー曲が使われている。

彼は当時では珍しく、芸能人でありながら政治的な発言を堂々としており、社会をよりよくするために「選挙に行こう」という、当たり前でいて泥臭いメッセージを発し続けた人でもあった。

昨今のSNSを見ても、芸能人が政治主張をするのはご法度とされており、たびたび炎上の原因となっている。子どもや女性が政治について語ると「生意気」だと思われる作用がより強く働く。しかし、そのような空気を気にせず、おかしいことはおかしいとはっきり言うのがグレタ流なのだ。

【グレタさんのロックな名言】

「スウェーデンのような小さな国が何をしても意味がないという人がいます。でも、子どもが何日か学校に行かないだけで世界中のニュースの見出しを飾れるのだとしたら。みんながその気になって行動したら、何ができるか想像してみてください」
「私たち子どもはたいてい、大人に『こうしろ』と言われて動くのではなく、大人と同じ行動をするだけです。そして大人は、子どもの未来を全然配慮していない。だったら私も遠慮なんかしません」
「私はこの世界のリーダーにお願いをしに来たんじゃありません。あなたが望むと望まざるとに関わらず、世界は変わるということを告げに来ました」


彼女の内面は「忌野清志郎」であり、楽器を持たない代わりに「科学」を手にして、激しく世の中を憂いている。彼女の系譜は従来の自然を愛する環境活動家のそれではなく、ボブ・ディラン、ジョン・レノン、忌野清志郎といった今は久しいロックスターの系譜で扱う方が的確なのである。

清志郎


③グレタさんは「普通の人」である説


最後に。
先月、ドキュメンタリー映画『グレタ ひとりぼっちの冒険』が公開された。この映画はグレタさんが一人でデモ活動を始めたところからスタートし、世界的に有名となり、はるばるヨットで大西洋を渡って、ニューヨークでの国連総会でスピーチを行うまでの足跡を辿っている。

グレタさんの怒った表情だけを知る人が、この映画を見たらきっと面食らうだろう。

──ものすごく「普通」なのだ。拍子抜けするほどに。

飼い犬を可愛がったり、遠征先でホームシックになったり、意味不明なダンスをしたり、父親の変な写真で爆笑したり。そこに映るグレタさんは普通の十代の少女であり、『ゆきゆきて、神軍』の奥崎謙三のような型破りな生き様はない。

しかし、そんな普通の少女が、なぜあそこまでの怒りの滲んだスピーチをするに至ったのか。その壮大な前フリを私たちは鑑賞することになる。
そして映画のラストで、例の「How dere you」のスピーチを改めて聞くときに、私たちは今までとは違った印象でグレタさんを見ることになるだろう。この不思議な追体験は味わってみてほしい。

モーセ

グレタさんのinstagramより。飼い犬の「モーセ」https://www.instagram.com/p/CMrp5AdJxEX/


グレタさんが嫌いな人へ


以上、3つの側面からグレタさんを説明してみた。
今現在グレタさんに良い感情を持っていない人に、私がシンプルに言いたいことは「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」になってはいけないということだ。

たとえ、グレタさんのことが嫌いであっても、気候変動を理解することはできる。温暖化対策を進める上で、グレタさんを好きになる必要もない。
もっと良いやり方が「大人ならばできる」と思うのなら、ぜひ実行してほしい。一般人の私がこんな文章を書いているのも、そうした拙い一手である。

グレタさんは気候変動の分野に大きな風穴を開けた。だが彼女をカリスマとして持ち上げることにはあまり意味がない。まだ気候変動のことを何も知らない人がこの問題を知り、行動を起こす方が必要な変化だからだ。
グレタさんが芽吹かせた活動は世界中に拡散し、FFF(フレイデーズ・フォー・フューチャー)は日本でも支部がすでに32ある。

もはや、グレタさんは特別ではない。
グレタさんが特別視されなくなったときが、本当のスタート地点なのだ。



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気候変動(地球温暖化)が単なる"環境汚染"ではなく、世代間・国家間の"不公平"の問題である点はこちらの記事で書きました
https://note.com/note_naganuma/n/nf067b21b12a0

グレタさんのユーモアに満ちたロックなスピーチ。11分で見れます
https://www.ted.com/talks/greta_thunberg_the_disarming_case_to_act_right_now_on_climate_change?language=ja#t-658901

グレタさんが「悪い大人に操られているんじゃないか」と思う人はこちらの記事を参照
https://news.yahoo.co.jp/byline/emoriseita/20190928-00144493


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