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OKストアの"意識低い"刺し身盛り合わせに隠された、ものすごい美意識

まずはこの写真を見ていただきたいのですが…。

OK刺し身

これは関東にて展開するスーパーマーケット、OKストアで売っている「刺し身盛り合わせ」です。さて、みなさんはどんな印象を抱かれたでしょうか?

「不揃い、見た目が悪い、ぐちゃぐちゃ、何の魚かわからん、自分で食べるには良いけど人には出せない、シールのアピールが必死・・・」etc.

いろんな意見があると思いますが、"意識低い"というイメージは拭えないでしょう。祝いの席でこの刺し身が出てきたら「え・・・?」と誰しも思う事請け合いですし、海原雄山に出したら、ちゃぶ台をひっくり返したあとで「この刺し身を作ったのは誰だあっ!」と鮮魚売り場に殴り込むかもしれません。『カイジ』の地下施設で3000ペリカで売ってそうでもあります。

これでは店名がOKストアではなく、OK?ストア。
「こんなものしかなかったけど大丈夫?」と夜食を作ってくれた母さん的な意味での「OK」だったのかと、疑問が頭をもたげてきます。

──そもそもOKストアとは「ナショナルブランド最安値」を掲げるスーパーで、全方位的に商品が安いことで有名です(一度行ったら他のスーパーで買い物ができなくなるほど)。OKストアではいろんなタイプの刺身盛り合わせを売っていますが、分量当たりの価格でみると、この刺し身が一番安く、その理由を分析してみると次のようになります。

・魚肉の不均一な端材を集めたもので、本来は刺し身としては提供しない部位が含まれている
・魚種ごとの分量もバラバラで品質が不均一である
・盛り付けに手間がかかっていない
・ツマや装飾(バラン、菊の花)、容器にコストがかかってない

私は正式に店に問い合わせしたわけではありませんが、「端材」と正直にラベルに書いてありますし、午前中はこの刺し身は置いておらず、夕方以降から並び始めることからも推測して「魚肉の余った端材を含んでいる」ことは揺るぎないでしょう。他のスーパーや料亭などでは刺し身としては出されない、もしくは(食べられるのに)そのまま捨てられてしまう部位なのかもしれません。

つまり、一見すると"意識低く"見えるこの刺身盛り合わせは「食品ロス」の削減に役立っている。しかも安い。そうなると俄然、冒頭の写真のみすぼらしさが輝いてくるのです。

さてここで、一般的な刺し身盛り合わせのイメージをご覧ください。

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・箸で持ちやすく食べやすいよう、均一に切り分けられた刺し身
・魚種ごとに整理され美しく並べられた配置
・野菜のつま、大葉、菊の花など、見た目の鮮やかさを添える工夫


確かに見栄えは素晴らしい。
ですが・・・ここに使われなかった素材に思いを馳せてみてください。

板前から均一な形で切り取られなかった身はどこにいったのか(そもそも魚のサイズは各々違うのだ)。ツマやパセリ、シソ、菊の花を実際に食べる人はどれくらいいるのか。冷蔵・冷凍技術が進化した現代でそもそも薬味は必要なのか。割高であっても見栄えの良い方を選んで買う必要はあるのか?

そんな中、冒頭の"意識低い"刺し身は、私たちに堂々と語りかけるのです。


──「別に魚が食えればよくねーか?」と。


日本では毎年600万トンの食品ロス(本来食べられるのに捨てられる食料)が出ていると言われます。人間が排出する温室効果ガスの約1/3が食の分野に関係すると言われるので、食品ロスを無くすことはイコール温室効果ガス削減につながっています。

さらに盛り付けにプラスチック製の菊の花やバランが使われることもあります。これらは見た目の華やかさに寄与しますが、いざ食べ始めたら捨てられるだけのパーツです。本来の盛り付けの起源は、薬味の効果で魚の痛みを防いだり、粋な板前がそのとき余っていた野菜を捨てずに役立てたという話でしょう。それをわざわざプラスチックで再現するのは使われ方が本末転倒です。

海鮮丼

(刺し身は酢飯と合わせて海鮮丼として食べた。おいしかった。思ったよりも細かな端材が含まれているのがわかる)


つまり、何が言いたいかというと、
脱炭素社会への移行は、社会のあらゆる場面での変容がともなう。
そして、脱炭素で最も早く変わるべきは私たちの「価値観」である、ということです。

例えば、温室効果ガスを大量に出す燃費の悪いスポーツカーを走らせることが「カッコ悪く」、自転車通勤するサラリーマンが「カッコいい」となるように、今までと価値が逆転し、環境負荷の小ささが最も誇れる数字となります。それはこれまで「卑しい」「ダサい」とされてきたことが「美徳」に変化する道筋でもあるのです。逆に、現在の意味のない「美意識・ヒエラルキー」は淘汰されていくでしょう。

以前ツイッターで、値引きシールの貼ってある食品を買おうとしたら「恥ずかしくないですか?」と知らない人から話しかけられたというツイートがバズっていました。
https://twitter.com/Pjd0zJnPyHJ06aS/status/1359051111814991872
値引きシールは言わずもがな食品廃棄の削減に貢献しています。こうした背景・事実を知らずに、いまだに「値引きシール=恥」と考える古い価値観の層がまだいるのです(彼らを悪く言うつもりはなく、資本主義的価値観に囚われた可哀想な人ということもできます)。

あの意識高い系の総本山ともいえる「スターバックスコーヒー」も、2021年8月から閉店間際での食品の値引き販売を始めました。このように、これからは見てくれにこだわらず環境的・倫理的に正しいことをやれば、企業として評価される時代となるのです。これは社会の正当なアップデートであると思います。

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1964年、ボブ・ディランがある曲を発表しました。アメリカで黒人の公民権運動や反戦運動など大きく社会変革が進んでいた時代。その曲は「古い価値観に囚われてはいけない。新しい時代がすぐそこに来ている」と歌っています。

脱炭素社会への移行で、私たちは否応なく価値観の変容を迫られます。その変化にスムーズに適応して伸び伸びと生きていくか、旧態の価値観にこだわって自縄自縛となるかは、あなた次第です。

あなたが、OKストアの一見"意識低く見える"刺し身を食べるとき、ぜひこの曲を口ずさんでみてください。時代の風が静かに吹くのを感じるでしょう。

線は引かれ 呪いはかけられた
いま遅い者は やがて速くなるだろう
現在のものが 過去のものとなるように
これまでの秩序は 急激に色あせていき
いま先頭に立っている者は やがて最下位となるだろう
時代は変わりつつあるんだ
──「The Times They Are a-Changin’」 Bob Dylan


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