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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る 『HPVワクチンの積極的勧奨再開』」鈴木貞夫

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)
Web医事新報登録日: 2021-12-02

厚生労働省は8年半続けてきたヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的勧奨の差し控え【1】を、11月26日の健康局長通知【2】で廃止した。2022年4月から自治体による個別勧奨が再開され、準備状況により前倒しも可能である。この通知の中で、勧奨は個別通知とし、確実な周知に努めること、個別勧奨および接種を進めるに当たっては情報提供や、接種後の体調変化に対する相談や診療などの対応についての周知を図ることが明記されている。

これに先立ち、厚生労働省の「厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会」と「薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会」が同12日に合同開催され、全会一致で「積極的な勧奨を差し控えている状態を終了させることが妥当」として、HPVワクチンの積極的勧奨を再開することを了承している。

この8年半の間に、HPVワクチンの有効性と安全性については、国内外とも数多くの研究がなされ、様々なエビデンスが集積している。国内の安全性研究については、名古屋市の3万人の疫学研究(名古屋スタディ)では、ワクチンのリスクは観察されず【3】、病院ベースの全国調査(祖父江班研究)でも、ワクチン非接種者から、同様の症状が一定割合で観察されている【4】。一方、積極的勧奨再開に反対している薬害オンブズパースン会議からは、大規模疫学的アプローチは設計が不適切という見解が出されている【5】が、因果関係は疫学調査をエビデンスのよりどころとしており、科学の観点からは受け入れがたい。

新聞各紙も紙面を大きく割いて報道している。今回も両論併記が広く行われていたが、薬害訴訟の弁護団の抗議声明や原告のコメントが広く掲載されていたのに対し、WHOの見解をはじめとするHPVワクチンの評価、日本産科婦人科学会など学会のスタンス、子宮頸がん患者や家族の声などの情報はほとんどなく、やや偏った印象を受けた。また、これまでのメディアの姿勢に対する記載や反省の弁もなかった。

積極的勧奨再開は、子宮頸がん対策上大きな一歩であることは間違いない。しかし、ここ8年半は実質中止状態になっていたため、接種機会を逃した対象者や、国際標準との乖離などの問題が残っている。キャッチアップ接種については、方針が決定し次第、速やかに周知する予定であることが通知に明記されている。国際標準との乖離については、9価ワクチンの使用と、男性への接種の問題について、検討と早期実現が必要であろう。

【文献】
1)厚生労働省健康局長、ヒトパピローマウイルス感染症の定期接種の対応について(勧告).
2)厚生労働省健康局長、ヒトパピローマウイルス感染症に係る定期接種の今後の対応について.
3)Suzuki S, et al: Papillomavirus Res. 2018;5:96–103.
4)祖父江友孝:青少年における「疼痛又は運動障害を中心とする多様な症状」の受療状況に関する全国疫学調査.
5)薬害オンブズパースン会議: HPV ワクチンの積極的勧奨再開に反対し、被害者の真の救済のための施策を求める.

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