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【識者の眼】「HPVワクチン積極的勧奨再開の決定について」岩田健太郎

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)
Web医事新報登録日: 2021-11-22

タイトルの通りである。ようやく、待ちに待った瞬間がやってきた。

俗に「子宮頸がんワクチン」と呼ばれるHPVワクチンの積極的勧奨が一時中止されたのは2013年のことである。この問題はその後、8年も長引く大問題になってしまった。悪いのは厚生労働省、メディア、そして一部の(専門家を含む)医療者である。

厚労省がHPVワクチン積極的勧奨再開を遅らせた問題は、同省(旧・厚生省)が「らい予防法」を何十年も廃止できなかった問題と同じ構造を持っている。ハンセン病も1940年代に効果的な治療薬が開発され、他者への感染性は問題なくなり、療養所への隔離は必要なくなっていた。が、このような科学的な根拠を無視した。そのほうが政策上有利で予算が取りやすいとか、世間の理解が追いつかないといった、科学とは関係ない理由(しかも、問題の当事者とは直接関係ない理由)で隔離を何十年も強要したのである〔財団法人日弁連法務研究財団ハンセン病問題に関する検証会議最終報告書(2005年3月)「第五 らい予防法の改廃が遅れた理由」〕 。

HPVワクチンのときにも、「科学的には妥当かもしれないが、世間が納得しない」といった官僚の投げやりなコメントを一度ならず耳にした。非科学的な根拠で世間が不正を後押ししているならば、「それはいけない」と根拠を示して世間を説得するのが行政の責務ではないか。

「世間」の感情を煽るべく、科学的なクリティークができなかったメディアも罪が大きい。官僚同様、社会の公器たるメディアを預かる専門家として、恥ずかしくはないのだろうか。世間を喜ばせたいだけならば、ジャーナリストなど止めて、エンタメ小説でも書いていればよい。

一部の医者もひどかった。確信犯の反ワクチン連中は論外として、「HPVワクチンにはRCTのエビデンスがない」などと屁理屈を言う連中にも閉口した。喫煙が肺がんの原因となるRCTのエビデンスもないのだから、そういう医者は喫煙でも励行していればよかろう。

この問題、結果的によかったよかったで幕を閉じてはいけない。「らい予防法」同様、総括・反省がなければまた同じ構造で同じ問題が起きるだろう。せめて、同様の問題再発を防ぎ、未来の世代に示しをつけるべきだ。

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