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感染症病棟〜新型コロナウイルスが変えたもの〜⑨

予想外の感染

「プルルルル…プルルルル…。」
感染が日々拡大していく中で
病棟の電話が鳴った。

近くにいた看護師が電話を受けると
「え⁉︎」と驚きの声をあげた。

思わずその声に作業を止めて振り返った。

電話を受けた看護師は
「何でそんなことに⁉︎とりあえず師長と方針をと話し合いますから!折り返しを待ってください!」と言って電話を切った。

何かあったな…と張り詰めた空気が漂った。

そして電話を受けた看護師が深いため息をつきながら説明を行った。
「別の病棟で入院患者を大部屋に入れて、術前検査で念のためPCRの検査をしたらコロナ陽性だったと連絡が来たんですけどどうしましょう。とりあえずこちらで受け入れですかね…」と…。

そもそもマニュアルでは
入院患者全員PCRを行い、陰性であれば部屋へ入室するような決まりとなっていたはずだ。
明らかに油断が招いた結果だった。

その話を聞いた師長がベットコントロールの調整を行い、患者を受け入れることとなった。


防護具をつけて患者を迎えにいくと
明らかに病棟は混乱していた。


「…感染症病棟です。患者の迎えに来ました。」
そう伝えると、

1人の看護師が駆け寄ってきて
頭を下げてた。

「ご…こめんなさい!
その…症状何もない人で大丈夫だろうって思っちゃって部屋に入れてしまって…
けど、陽性って連絡きたらどうしたらいいのかわからなくて…
今まで感染対策すればいいだけじゃんって正直思ってたけど、いざやろうとしたら全然出来なくて…」

そう話す看護師に
(今までがラッキーだっただけでこうなる可能性は充分あったはず…。)
という思いと同時に

心のどこかで感染者は感染病棟に頼めばいいだけと思っていたことが透けて見えて悔しさが込み上げた。


感染対策は簡単そうに見えて
いざとなると難しいことが多い。
だからこそ繰り返し練習が必要なのだ。
周りから暇だと思われていた期間に
私たちは自分たちの身を守るため、そして感染拡大を防ぐために必死に練習をしていたのだ。

なのにこんな安易に感染拡大をしてしまうような行為に
怒りを覚えた。

しかし、ここで怒っても何もならないのだ。
今すべきことは起きてしまったミスをこれ以上悪化させないよう全力を尽くすのみだ。


怒りをグッと押し込み
「…とりあえず患者を搬送します。マニュアルや今後の対応の確認をお願いします。わからなければこちらの病棟か感染管理の認定看護師に確認をしてください。」
そう告げて患者の病室へ向かった。



無事患者の搬送を終えたが次なる問題がある。

この患者は術前なのだ。
つまり手術を行う必要がある。


陰性化するまで手術を待機できる状態ではなく
感染対策をして手術室に移動となった。

術後も細かい監理が必要だ。
そのため何度も患者の部屋に入室する必要があった。

(重症や術後が増えると現状では明らかに人手が足りない…)
そう感じ始めていた。



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