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詩の世界

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2023年5月の記事一覧

【詩作】海へ

【詩作】海へ

寄せては返すさざ波で
静かに私を満たす海

少しばかり恥じらうように
水面を小刻みに揺らしながら
淡く囁く波の音は
次第に熱を帯びてゆく

やがて最も高みに達した波濤は
荒々しく私の洞穴を貫き
迸る真白な飛沫は
未知なる宇宙の奥へ――

悶え叫ぶ呼吸が尽き果て
再び碧い静けさが訪れた時
大理石のような煌めきで
あなたの水面は光り輝く

ああ 海よ
私の愛しき海よ

あなたの歓喜の汗と
愛に溢れた接

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【訳詩】マクベスのTomorrow Speech

【訳詩】マクベスのTomorrow Speech

明日も、明日も、また明日も
人生最後に記録されるその瞬間を目指して
のろのろと日ごと歩みを進めてゆく。
我々が生きたあらゆる日々は
愚か者が塵芥に帰すまでの道を照らしただけだ。
消えろ、消えてしまえ、そんな短い蝋燭など!
人生は歩く影法師、惨めな役者だ。
舞台の上で見得を切ったり、おろおろしたり
やがては見向きもされなくなる。
所詮はバカの話さ、怒り狂って騒がしいだけで
あとは何の意味もない。

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【詩作】忘れな草 -Forget-me-not-

【詩作】忘れな草 -Forget-me-not-

悲しめる母なる大地の子守歌を聴け

雛鳥たちは 虚空を舞う翼を求めて
春の訪れを 心待ちにさえずり
夏には 蒼穹の天を仰ぎながら
向日葵が お日さまと笑っている

やがて 麦の穂の実る秋は過ぎ
真白に広がる雪の絨毯を 橇が走る頃
調子のよい 勇ましい軍靴の音は
地響きを立てて やって来た

踏みしめられた 黒い土の下に
まことを知る 春の蕾は
かたく口を閉ざされて
とうとう 涙も枯れてしまった

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