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本棚の森 〜書評集〜

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動物本、動物園本を中心とした書籍のレビューをまとめました。
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#富山

総曲輪通りでつかまえて(4)北陸新幹線糸魚川行き

総曲輪通りでつかまえて(4)北陸新幹線糸魚川行き

 私が北陸にいた2年間はこの地域では例外的に豪雪がなかった2年間だった。台風も直撃することはなかったし、地震被害もなかった。『まっとうな人生』の中で富山の災害の少なさが富山県人から語られる場面があるが、実際に私の周囲でも「立山はバリアだから」と冗談めかして話す同僚がいた。
 だから、私の中では富山は暮らしやすいというイメージばかりが先行しているのかも知れない。ずっとこの地に暮らしている人の苦労も知

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総曲輪通りでつかまえて(3)野鳥を眺める

総曲輪通りでつかまえて(3)野鳥を眺める

 『まっとうな人生』の中で花ちゃんが訪れる、射水市の海王バードパークは私も訪れたことがあった。「サンクチュアリ」の名の通り少し海王丸パークから離れたひっそりとした場所にあって、訪れるひとはまばらだった。親切なバーダー(「野鳥の会」の会員)が、あそこにミサゴがいますよ、と望遠鏡を貸してくれた。

 富山県に来てから私は動物園だけではなくバードウォッチングにも精を出した。きっかけは立山の室堂を散策した

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総曲輪通りでつかまえて(2)照らされながらひとりで居ること

総曲輪通りでつかまえて(2)照らされながらひとりで居ること

 コンパクトな富山の街はとても暮らしやすかった。限られた滞在期間であることは分かっていたので車は買わず近所のカーシェアを利用することにした。これでは普段の遠出はしづらいだろうと思っていたが、ライトレールが走っている市街地だけでひととおりの暮らしは完結する。もし市街地にないものが気になれば、休日にファボーレまで足を伸ばすか、金沢まで出てもいい。

 総じて規律正しい暮らしぶりだったと思う。動物園に通

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総曲輪通りでつかまえて(1) 絲山秋子『まっとうな人生』と、追憶のなかの富山

総曲輪通りでつかまえて(1) 絲山秋子『まっとうな人生』と、追憶のなかの富山

 芥川賞作家、絲山秋子さんの『まっとうな人生』(河出書房新社,2022)を読んだ。

 コロナ禍の富山県での暮らしを、結婚を機に移住した「花ちゃん」(『逃亡くそたわけ』の主人公でもある)の視点から描いた一冊。
 「たびのひと」として北陸の地で暮らす中で去来するさざ波立つ微細な感情と情景の描写に、私自身の同県で暮らした2年間が重なった。

 作品の時系列は、コロナ禍に入る直前の2019年4月から20

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