たつみちゃんの話

年単位でnote放置キメてましたどうもどうも。

最近の僕はと言いますと、小癪にもイラストを描き始めたりなんかしちゃってこう、何らかのクリエイティブな衝動みたいなのは全部そっちに注力してたんで。自分でも文章ってどうやって書いてたんかちょっと思い出せん。ちょっとリハビリがしたい。

でもアレ。シンプルに書くことが無い。起きて会社行って仕事して帰って寝るみたいな生活を続けてるんで。なんかもう感情を持たないマッシーンみたいな。そういう感じだったんで特にアレですね。子供が最近「パパ、違う」って抱っこさせてくれる確率が減ったとか。膨らませようが無い話しかない。

無いんでちょっと昔話します。僕が大学生の頃かな、早朝コンビニバイトに連続寝坊ブッチキメてクビになった後、ミスタードーナッツでバイトしてたんですよ。ミスド。特にミスドが好きとかでも無いんですけど家から近かったんでそこでバイトしてました。

んでそこのミスドでは大体いつも同じ人と一緒になって仕事してたんですけども。斉藤さんっていう。もうあんま覚えてないんですけど、驚く程目が小さかったことしか覚えてない。シジミみたいな目してましたね。

斉藤さんはベテランの方で当時の僕より結構歳上の方でした。多分30前くらい。仕事は真面目にこなすし、めっちゃ声でかかった。客が来たら居酒屋のバイトかってくらいの声で挨拶するし、あとドーナツを箱詰めするのめっちゃ速い。神速。驚く程速い。彼こそがミスタードーナッツって言っても過言じゃない。

あとびっくりするのが虫も殺さないような優しそうな、平和の象徴みたいな顔してるのに私服がめちゃめちゃオラついてる。お先にー、って帰る斉藤さん、体はもうほぼ反社。オフの時のヤクザみたいなジャージ着てる胴体に観音様みたいな優しい表情の頭が乗っかってる。もう何もかもわからない。わからん過ぎて怖い。ミスタードーナッツ怖い。

ほんである日僕が時計を凝視しながらはよ終われって念じているとですね、ガラスの自動ドアの向こうにいかついバイクが止まったんですね。

僕がちょっとバイクとかあんま詳しくないんでアレなんですけど、もう東京卍リベンジャーズのキャラが乗ってそうな攻撃力の高そうなデザインのバイクが。伝んねぇかな。

そのバイクの上には細身のセーラー服着た女の子。顔はフルフェイスのヘルメット被っててわからないんですけど。

直前まで「頼む…30分ぐらい進んでいてくれ…!」って念じながら時計見ても5分も経ってないみたいな茶番を繰り広げてたくらいには暇だったもんで、思わずそのセーラー服の人を凝視しちゃって。

だってもうなんか出立ちが既に創作の世界の住人みたいじゃないですか。イカついバイクに乗るセーラー服の女の子。フルフェイスで顔は見えない。アニメの世界のアレじゃないですか。東京卍リベンジャーズじゃないですか。言うほどリベンジャーズわからんけど。

思わず見惚れてたらセーラー服の子がね、ヘルメット取りおるんですよ。まぁ気になるじゃないですか。どんな子が乗っとるんやと。そのおフェイスを見せてくれよと。300円あげるからって思いながら見てたんですけど。

フルフェイスのメット取ったら中からハゲたオッさん出てきたんですよ。オッさん。
もう完全無欠のオッさん。めちゃくちゃにハゲ散らかしとる。びっくりするじゃないですか。セーラー服着てんのに、胴体は女子高生なのに頭オッさんて。斉藤さんの私服初めて見た時よりびっくりした。頭だけすげ替えたフィギュアみたいな格好すんの流行っとるんか?って思ったわ。

ほんでその女子高生になり損ねた哀れな何かががまーっすぐ我々の方に向かってくるわけですよ。僕もうちょっとしたパニックになって、斉藤さんに「ちょっと言語化しにくい人がこっち来てますね」って。お客さんなのに。ちょっと捻った暴言言っちゃった。

一方で多様性を認めた社会をそのまんま体現したような姿の客にビビり倒す俺と違って斉藤さんは凄い落ち着き払ってましたね。

「ああ、たつみちゃんやん。」

さらっと説明してくれたけどまぁお店によく来る常連さんみたいで。色々聞いたけど全く頭に入ってこん。300円返せやとしか思ってなかったですね。払ってもないのに。

「鼻セレブ君、たつみちゃんを怒らせたらいかんよ。絶対いかん。特にあの格好を笑ったりしたらダメよ。もう既に半笑いになっとるけど。」

と忠告だけして斉藤さんは奥に引っ込んでいきましてね。そんなん言うならお前が対応しろやと思いました。今でも思う。糸コンニャクみたいな目しやがって。

当時僕がバイトしていた店舗はと言いますと、セルフ方式になってて入店してまずトレーとトングを取って好きなドーナツ取ってレジで会計ってシステムだったんですよ。

入店してきたたつみちゃん、トレーもトングも取らずにレジに向かって一直線。途中でオールドファッションをガッと右手で掴んで、ドーナツの穴に人差し指突っ込んでクルクル回しながら軽快にこっちに歩いてくるんですよ。

俺ね、こんなんしたらダメだと思うんですよ。人がちゃんとした接客しようと必死に笑うの堪えてるところにドーナツクルクルするの。
こっちなんか下唇おもっくそ噛んで下向いて、レジに胃液吐き散らかしそうな勢いで笑い堪えてるわけですから。追撃ですよねこれ。完全に仕留めにかかってきてる。

まぁ僕も言うてもレジに立つ以上はプロなんでね。遂に目の前に来たたつみちゃんにね、「エッヒェwwww」とかもう言葉になってない嗚咽みたいなの挟んだりしつつも、やっと「こちらでお召し上がりですか?」って言葉を絞り出したんですよ。

そしたらたつみちゃん、オールドファッション齧りながら「店内で」って答えて小銭出してきた。

もう無理ですよこれ。その場で膝から崩れ落ちてアホほど笑いましたね。逆に耐えれる人おるんかと。指でクルクルからのレジで齧るコンボ。定義できんけどもう何らかのハラスメントだろこれ。

たつみちゃんはというとまぁ普通に良い人でね、笑って許してくれました。むしろ一笑い取ってやったぜ的なね。戦場で敵の大将の首をとった武将みたいな、やり遂げた顔しながら清々しい顔して出ていきました。オールドファッション齧りながら。不必要に短いスカートひるがえしてから。

実際たつみちゃんは常連さんでしょっちゅう店に来る方で、慣れると別にもうなんとも思わなくなってくるんですよね。むしろ7割反社の斉藤さんのが怖いんじゃねぇかってくらい。

僕も後から入ってきた新人が来た頃には、「あれか…あれはお前、たつみちゃんやろ。」ってビビり倒す新人にあの日の斉藤さんみたいなほっそい目しながら呟いてましたしね。

特にこれってオチは無いんですけど。ミスドのバイトは2年くらいやったけど、斉藤さんが辞めてなんとなくつまらなくなったのと店長が嫌いだったんでバックれて辞めました。この辺のエピソードが俺という人間をわかりやすく説明してくれていると思います。シンプルにクズ。


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