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なんとなくで就職して苦労している昔の僕へ。「なんとかなったよ」【今の僕と昔の僕との往復書簡】

「じゃあ、元気で頑張ろう」

あれは2019年の、生暖かい風が吹く桜の樹の下で、通い慣れた校門の前で互いの健闘を祈って、6年付き添った学友と別れた。そこからの2年間は想像を絶するものとなり、生きた心地がしなくなる。

この時期になると思い出す、春先のこと。寒さも落ち着き、春の足音が聞こえてくる今日この頃。この4月、新社会人となる人。おめでとう。人生の新たなスタートにワクワクとドキドキで心踊っていれば、不安もあるだろう。まだ荷解きが終わらない新居で四苦八苦している人もいるだろう。

僕も同じように大学を卒業して社会人となった。僕は大学院まで行っているので、同期とは2年遅れになるが、僕も社会人として働いている。今はとても楽しく仕事ができている。これも周りの同僚や先輩の助力の賜物だ。僕は今でもその感謝の気持ちを忘れてはいない。何歳になっても「謙虚さ」と「感謝」の気持ちを忘れてはならないものだ。

僕は社会人になってから、毎日数行、日記をつけている。ポジティブなこともネガティブなことも、赤裸々に書き記している。この日記は絶対に誰にも見せはしない。墓場まで持っていくつもりだ。今、その日記を読み返すと、とてつもなく、絶望に満ち溢れた日記になっていた。とくに2019.4〜2020.2までの日記がそうだった。とてもじゃないけど、今の自分が読んだら目に余る内容だった。

以下、その日記をかいつまみながら、「昔の僕が書いた日記」と「昔の僕へと宛てた手紙」を書いていく。少々、ネガティブな内容が続くので、読む際はご注意を!



入社からの1年は絶望に満ち溢れた

期待と不安に心を躍らせながら洋服の青山で買った新品のスーツに身をまとい、入社式に向かう僕。同期とこれから、苦楽を共に乗り越えて、頑張っていこうと。そう同期と誓う。

10日間の座学研修を終え、配属先が決まる。配属先に同期がおらず、不安の気持ちが高まる。しかし、この不安が現実のものとなってしまう。

有り体にいえば、配属先の上司からパワハラを受けてしまう。最初のころは、まだ自分が勉強不足なだけだ。次から同じミスしないように気をつけよう。そう思っていた。でもなぜだろう。思い通りにいかない。

日に日に上司からは業務の範囲から逸脱した、罵詈雑言を浴びせられてしまう。

2019年12月、当時配属先の三鷹で僕は、声にならない声で泣いていた。駅に着いた途端、足がなまりのようになってしまい、身体が前に進まない。自分が自分じゃなくなるような、そんな感覚に陥った。僕が思い描いていた社会人生活とは程遠かった。「こんなはずじゃなかった」「生きるって大変だなぁ」と思っていた。生きるために頑張らなきゃいけないことが多すぎるのって、人生って無理ゲーすぎる。

ようやくの思いでたどり着いたオフィスで、また同じように上司から罵詈雑言を浴びせられる。

「あ、もうだめだ」と、辞める決意が決定的になったのは、上司から暴力を受けたのだ。僕のお腹に膝を入れられた。ここには記せない罵詈雑言とともに。

「最初の1年は本当に大変だという覚悟をもって、業務に励んでください。職場の人間関係は簡単に切り離せるものでは無いですからね。」

研修のとき、先生から言われたことだ。それはそう。でも、これは話が違うじゃないか。なんで、心身ボロボロになりながら仕事しなければならない。生きているだけで寿命が縮むような。自分の健康を度外視してまでしなければならない仕事ってなに???もう嫌だよ。こんな仕事。この数ヶ月で体重が10kgも落ちた。日常生活もままならないほどになっていた。同期や年次の近い先輩もおらず、誰にも相談できずにいた。

もうダメかもしれない…

仕事終わりに、職場近くの公園でうずくまりながら泣いていた。ここでようやくスマホを手に取り、会社の担当の者に助けてほしいと嘆願した。

事の発端をすべて話したとき、担当の人が「…………それはひどいね…………なんとかするわ!!!」と、思いにもよらない一言を言ってくれた。嗚呼、僕に救いの手を差し伸べてくれる人がまだいたのか……と涙が出た。

僕はそのパワハラ上司のことを裁きたいわけではない。そのパワハラ上司にだって、守らなきゃいけない家庭があって、奥さんやお子さんもいる。だからそのパワハラ上司をどうこうしたいわけじゃない。今の僕がどういう状況におかれて、どういう処遇を受けているのか聞いてほしかっただけなのだ。強いては、僕の処遇改善なのであって、「あのパワハラ上司をなんとかしろ!」とは言わなかった。僕にもまだ一抹の優しさが残っていたのかもしれない。

会社の親切な計らいで、ありがたいことに、年度の途中だが、配属替えをさせていただいた。今までの業務とは異なるけど、心機一転もう一度頑張る覚悟ができた。よし、新しい配属先で頑張ろう。そう心に誓う……のだが。

配属先のちょっと年上の先輩からいじめを受ける。

またか。

僕が仕事が出来ないってのがわかると、挨拶は無視される(これは当たり前)。業務内容を共有してくれない。書類も黙ってデスクに置かれる(ぶん投げられるように置かれるに近い)。仕事が出来ないのは今だからであってこれからじゃん…。そのくせ、上司や先輩の前となると急にペコペコしだす。たまに僕に声をかけてきたかと思えば、当たり前の呼び捨て(呼び捨ては最悪いいんだけど何か呼び方が鼻についた)、上からものを言う態度。最初のうちは我慢していたけど、徐々に今度は怒りが込み上げてくる。ちょっと年上で先輩だからって、何その言い草と態度は。でも僕はまだ仕事が出来ない身。先輩に喧嘩を売るなんてことは出来ない。

前の配属先の経験から少し学んだ僕は、「もうこの人ダメだ。この人と関わるのやめよう」と、自分から逃げることも覚えた。否、これは逃げではない。自分を守るためなのだ。

その先輩は年度末に配属先が変わると報いを聞いた。よっしゃ。

とはいえ、僕にも少しの良心はあったので、帰り際、「お先に失礼します。今までお世話になりました」と言って別れを告げたら、僕に背を向けたまま最後まで無視した。

それからはというものの、優しい先輩や上司に恵まれ、徐々に業務も覚え、自分なりに手に職がついた気がして充実した日々を送ることが出来た。

今の僕から昔の僕へ贈る手紙

今から昔の僕へ手紙を書く。

端的に言うと、君はよく今まで頑張ったよ。君といえば、元々教員志望だったのに、今の職場にいるのが不思議なくらいだ。教員としての採用が決まらず、民間企業も視野に入れて就活したはものの、特にやりたいことがない君は「なんとなくここならやっていけそう」と選んだ会社に入ったよね。それも中々のもんだ。

さて、まず1つ。そのパワハラ上司と縁を切って正解だ。学生の時とは違って、職場で関わる人間関係は中々切り離せないものである。しかし、罵詈雑言や暴力を振るう上司なら切り離していい。そこで君は会社に電話して助けを求めた。よくやった。今の職場が恵まれているのは、周りの同僚や先輩の助力の賜物だ。令和の虎に出ている、上からものを言う偉そうなビジネスマンにはなってはいけない。何歳になっても「謙虚さ」と「感謝」の気持ちを忘れてはならないものだ。

そして先輩にいじめを受けるが、その先輩と離れられてよかったな。社会人として「挨拶ができない」のは論外だが、挨拶を無視するのはもっと論外だ。そのくせ、たまに声をかけてきたかと思えば上からの物言いで君は腹を立てる。わかる。めっちゃわかる。業務命令をするにしても、先輩や後輩に関わらずものの言い方ってすごく大事。言葉を選んで話すことくらいできなきゃ恥ずかしい。君はその点上手くやっていると思うよ。

あと、書類をだまってデスクにぶん投げるのもダメだよなぁ。そう思った君は、どんな些細な書類でも必ず手渡しと一言を添えるのを徹底するようになる。

たしかに物覚えも悪ければ、頭の回転も遅かった君は四苦八苦したことだろう。君は君なりに頑張ったに違いない。ただただその頑張りが上手く周りに伝わらなかっただけだ。早く業務内容を覚えようと頑張った君は悪くない。辛く、大変な時期があったりして、少し時間はかかったけれど今の君は立派な会社の一員となっている。今度の4月に入社する新入社員のOJT係に任命されるんだ君は。少しは自信にもなったんじゃないか?

人間の本性はだいたい決まって「疲れている時」に出やすい。どんなに疲れていても後輩でも挨拶は怠るな。挨拶がちゃんとできたり、笑顔で挨拶を返すことで「良い人」だけでなく、「この人は仕事が出来る人だ」と見られるので、挨拶は何がなんでもちゃんとしとくのだぞ。

あと、君、そんな昔のことや記憶を引っ張ってはいけない。日記にネガティブなことを残していると、また負の感情が生成されるのでやめたほうがいい。「あったな〜こんなこと」と笑い話にできるならともかく、パワハラ上司や嫌いな上司のことをまた思い出して辛くなるだけだ。過去の出来事は変えられないのだ。今後君が気にしなきゃいけないのは「今をどうしたいか」だ。

今の君の人生は、陽だまりとなった幸福感に包まれている。失敗も挑戦も何度しても許される年齢に今ある。君がどんなに自由であってもそれを否定する者はいない。人生は自由であり、希望なのである。そう思えるようになった君は、人生のレールが切り替わる音が聞こえてくるだろう。

当初考えていた社会人像と違ったかもしれないし、教員志望だった君からすれば、なんとなくで入った会社に四苦八苦するが、今の僕から昔の僕へ一言。

「なんとかなったよ」

僕はそれがわかったとき、辛く大変だったあの時代の最後を見送った。

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