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2021年読んで面白かった本10冊【後編】


2021年もあと少しです。今年もいろんな本との出会いがありました。1年の終わりに自分が何を読んで、なぜ面白いと感じたか記録に残したいので、掲題のとおり、今年読んで面白かった本を10冊紹介します。本記事はその後編になります。前編はこちらからご覧下さい。


小説だったり、新書、ノンフィクションと、ジャンルはバラバラですが、ぜひ最後までご覧下さい。

6.小笠原弘幸『オスマン帝国 繁栄と衰亡の600年史』

新書から。オスマン帝国って、世界史の授業でほんの少ししか聞いたことなくて、なんとなくトルコあたりにあった帝国ということしかわからなかった。

オスマン帝国は私にとって門外漢であったため、読んでみることにした。

ひとえにオスマン帝国といっても、1299年~1922年とその歴史の長さがすさまじい。日本史だと鎌倉時代~大正時代に相当する。600年という長さのどこがすごいのかというと、漢王朝でも400年、清王朝は300年。どんなに長く続いている王朝でもせいぜい3,400年くらいです。600年も続くような王朝って、ほぼない!世界史を習った人ならわかりますが、教科書の中でオスマン帝国は要所要所でしか登場しないので、いまいちどんな帝国だったかわからないことが多い。この約600年という歴史を一人の人間が記述すると、かなりの労力を要する。本書はその600年という歴史をもつオスマン帝国を通史で概説している貴重な1冊である。

中には「オスマン・トルコ」という名で習った人もいるだろう。しかしそれは厳密には違う。王家も生母はほとんど非トルコ系で、支配エリート層もほとんどが非トルコ系の多民族国家だったことからオスマン・トルコの呼称はふさわしくなく、「オスマン帝国」と呼ぶことが主流になっている。なるほど。まずその前提の理解がないと、このオスマン帝国の歴史が理解できないというわけだ。

読んでみると、イスラム教って本当によくできた宗教だなって思う。徴税のシステムだったり、軍事システムなんかは全部イスラム教の教えに則ってているし、集めた税金も帝国内のインフラ整備に充てたりしてるから民衆の反乱が少なかった。あと、ムスリム以外の異教徒も寛容に受け入れたり、キリスト教圏の戦争孤児を引き入れ、イェニチェリ軍団を結成したりするなど、約600年という空前絶後の歴史の秘密はここにあるんだと思った。だって、異教徒を自国の軍事に取り入れるってすごいことだと思わない?

そんな約600年というオスマン帝国の政治システムや社会、経済、文化といった幅広く理解できる良著だった。ビザンツ帝国の歴史とあわせて勉強するとより理解が深まるかも。


7.今村昌弘『魔眼の匣の殺人』

【前編】にて紹介した『屍人荘の殺人』の続編にあたる。前作同様、ミステリーサークル物である。物語の性質上、内容の言及を控えなければならないが、あらすじは以下のようになっている。

その日、“魔眼の匣”を九人が訪れた。人里離れた施設の孤独な主は予言者と恐れられる老女だ。彼女は葉村譲と剣崎比留子をはじめとする来訪者に「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」と告げた。外界と唯一繋がる橋が燃え落ちた後、予言が成就するがごとく一人が死に、閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。さらに客の一人である女子高生も予知能力を持つと告白し――。ミステリ界を席巻した『屍人荘の殺人』シリーズ第二弾。
東京創元社HP

あらすじにあるように、「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」とある。

。。。。

え。予知能力があんの!?ミステリー作品に予知能力を設定に盛り込むの禁じ手じゃない!?ノックスの十戒に反してるよ!!!

ダメだよそんなミステリー…って思って読んだらまんまと騙された。面白かったのである。「あ。そういうこと!?」って何度つぶやいたか。アハ体験がすごくて脳汁がドバドバとあふれてきた。


8.中村文則『R帝国』

国家を支配する”党”と、謎の組織「L」が存在するR帝国。戦争が始まり、やがて世界は思わぬ方向へと暴走していく。世界の真実を炙り出す驚愕の物語。
中央公論新社HP

ディストピアでダークなお話がお好きな方におすすめ。

書き出しからもう引き込まれる。

朝、目が覚めると戦争が始まっていた。

パラレル設定なのに、どこか現実味を帯びているかのような文章に痺れた。別世界の近未来の話なのに、どこか現代社会を風刺しているかのような。もう、中村文則の文章暗すぎて…。そういう文章が好きな人はハマるんじゃないでしょうか。「こんな世界、ありうるかもな」と、没入感がある作品です。


9.阿佐ヶ谷姉妹『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』

エッセイから1冊。女性お笑いコンビ、阿佐ヶ谷姉妹の初エッセイである。以前はコンビで同居していたが、現在は解消し、隣同士で住んでいるという。そんな阿佐ヶ谷姉妹の私生活がのほほんとしており、平易な文章で綴られている。非常に読みやすい。芸能人が書くエッセイなら内容問わずみんな読むと思う。自分の推しならなおさら。それを差し引いても、文才がある。

そもそも阿佐ヶ谷姉妹のネタを観たらわかるが、非常に品が良い。ツッコミで頭を叩く、決していいとは言えない関西弁の言葉遣い、誰かをターゲットにして笑いをとる、阿佐ヶ谷姉妹にはそのようなことがなく、言葉遣いも丁寧で非常に上品だ。

コンビの中でテレビ出演の際、比較的、木村美穂がポンコツキャラとして周囲の芸人からいじられているのだが、本書を読んでみると渡辺江里子のほうが意外とポンコツだったりする。可愛い。50手前の2人の何気ない日常が垣間見れて面白い。今年読んだエッセイ本の中で『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の次に面白い本だった。


10.トマ・ジョリオン 著 / 岩澤雅利 訳『世界の美しい廃墟』

写真集から1冊。廃墟好きのマニアにおすすめ。日本だと軍艦島が有名になり、日本でも「廃墟ブーム」が浸透し、写真家の方たちに好まれるジャンルの一つとして確立した。

ここで1枚の写真をご覧いただきたい。

画像1
画像元:https://hagamag.com/uncategory/5163Z(2021.12.29閲覧)


ブルガリアにある旧共産党ホールである。

もう、、、、すごくないですか?

様式美もさることながら、時が止まって静寂な空虚な空間が広がっている感じが1枚の写真から伝わってくるの熱くないですか???そんな世界の廃墟を紹介しているのが本書『世界の美しい廃墟』である。

活字の本に疲れたとき写真集を眺めるのはとてもいい。もしジャンルでお悩みならぜひ『世界の美しい廃墟』を。私は1年通してずっと眺めるようにこれをみていた。


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