ジェットコースターだけは勘弁してくれ
先日、入間市にある三井アウトレットパークに行った。ここは二百を超える店舗が軒並ぶショッピングモールで、大半がアパレル、それも普通の店よりもずっと安く購入できる素晴らしい商業施設だ。
私は昔からアウトレットが好きな子供だった。行きたくなったらすぐ母にせがんでナガシマのアウトレットに連れてってもらい、毎月のように通っていた。母から「あんたとお兄ちゃんはアウトレットで2BUY10%OFFだったから買ったのよ」と冗談を飛ばされたこともあったが、そんなことを実の子供に言わないでほしい。うまく笑えない。
普通、ナガシマと言えば「ナガシマスパーランド」を思い浮かべるらしい。しかし、私の思い出の九割はアウトレットだ。ジェットコースターなんて怖くて乗れない。何が楽しくて乗るんだ、あんなもの。
というか、金を払って怖い思いをするってどういうことなんだ。サービスの対価として料金を支払うとはつまり、自分に何かしらのメリットを享受できてこそ成立するものだ。だから私たちはマッサージや映画館に金を払うわけだが、恐怖というデメリットしか提供できないジェットコースターはその契約が根本から間違っている。「スリルが味わえるから」じゃない。スリルなんて味わえなければ味わない程良い。
そもそも、人間なんて全員山あり谷ありスリル満点の急降下を繰り返す、人生というものを既に送っているではないか。それなのに、まだスリルが欲しいのか。欲張りめ。
あと、ジェットコースター好きは全人類がジェットコースターを楽しめるものだと勘違いしているのかもしれない。「絶対乗ったら楽しいから!」とか言って手を引いてくる。その時の彼らは既に正気を失い、嫌な笑みを浮かべている。焦点が合っていないのに、異様に眼球がキラキラしている。可哀想に、コースターに頭を揺らされおかしくなっているのだろう。逃げた方がいい。
だが、全力で拒否すると「絶対楽しいのに……ノリわる……」みたいに悪者にしてくる。悲しい。絶対という言葉をそう易々使わないでほしい。絶対楽しくないのに。
また、こっちはそれを十分理解したうえで拒否していて、「別に私のことは気にせず乗ってきなよ」と提案しているのになんか不機嫌になる。悲しい。だから仕方なく乗ることもしばしばある。
乗ったら乗ったで、やっぱり後悔する。並んでいる最中から心臓は高鳴り、乗り込んで安全バーを下げた時には胃が逆流を起こしている。コースターがせりあがる際には、もう経を唱えているか寝たふりをしている。
豪速で落ちるのはとんでもなく怖いが、同乗している客の悲鳴も同じくらい怖い。叫び声なんて聞きたくないので耳を塞ぎたいが、安全バーから手を放すなど天と地がひっくり返っても不可能だ。聞かざるを得ない。ちなみに大学受験で死ぬほど落ちて叫んだ私は声がすっかり枯れてしまっているので、彼らのように叫ぶことはない。
毎回、降りる頃には足と腕が筋肉痛になる。それと奥歯も痛い。身体を数分間全力で力ませ、歯を食いしばるからだろうが、お土産としては杜撰すぎる。それと落ちる瞬間に撮った写真を売るな。恥ずかしいから。
しかし、最悪の環境から解放されたおかげで気分だけは良い。高い壁を乗り越えた達成感が私を満たす。そしてそんな私を見て、ジェットコースター好きは見当違いも甚だしく「ほら、楽しかったでしょ?」としたり顔をする。彼らの「人類全員ジェットコースター好き理論」は、こうして生まれるわけだ。
まあとにかく私はジェットコースターが苦手だ。人間の所業じゃない。とはいえ、別にあれを好いている人たち全員を否定したいわけではない。理解はできないが、そういう方々と敵対したいわけでもない。「楽しい」と感じるものは各々違って当たり前だし、その考えは尊重する。ただ、ジェットコースターが苦手な人間は一定数存在するわけで、私含めそういった人々を無理に誘わないでいただけると非常に有難い。あの、観覧車とか乗ってるから。
そういえばアウトレットについて書こうと思ったのに、ついついジェットコースターの話に脱線してしまった。めっちゃ縁起悪い。
アウトレットについてはまた今度書こうと思う。
こんなところで使うお金があるなら美味しいコーヒーでも飲んでくださいね