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クァシンとアイの冒険

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設定をフリー素材にしました。 キャラも世界観も自由に使ってください。 どんな形式でも大歓迎です。 小説でも詩でも音楽でも絵でも良いです。 #ワールドザワールド
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#連作短編

26 川の底の神様

 しとしと雨が降った。  うさぎたちはアイの部屋にはいったり、木陰にひそんだり、土にもぐったり、箱に隠れたり。ひげを揺らして、鼻を寄せあって雨をながめるのだった。みんな静かに、黒く濡れた瞳や、赤い瞳で。  アイは床いっぱいにひしめくうさぎたちをかきわけて、扉から顔を出した。秋にしてはむし暑くて、どろりとした汗と雨が首から背中へ流れる。  陰鬱とした重苦しい雲。  うさぎたちも体を重そうに、ひっくりかえったりするのだった。  アイは雨が強くないと判断したので、外へ出て、クァシ

24 短歌集「女神たちはたらく」

__新月、曲がったノートを閉じる家庭教師の解読不能な提案。  チョークを置く音は乾いていてまるで一つの木管楽器が間違って鳴ったみたいな嬉しさがある。アイはノートに答えを書いた。三角の女神に連立方程式を教わっているのである。  三角の女神はアイの隣に腰を下ろし、机に肘をついて自分が書いたばかりの板書を眺め、「ふーん」とバネが緩んだびっくり箱みたいに首を揺らしながら後ろに大きくもたれた。下唇を突きだしてアイのノートを見る。 「よくできてるじゃん」 「数学だけは」とアイは鼻でシュ

23 蚊に刺されて

1  目を覚ますなり身体をギチギチと痛めつけ鉛のように重くする高熱の症状に、気を失うように眠ったり、また反転して起きたりと繰り返す白髪の少年は今再び瞼をもちあげ、曇った瞳で天井を眺めていた。その風景も周囲の人らの彼を慮る声も、病人には届いていない様子である。熱は抵抗を作る。ここでもまた高熱のクァシンと周囲の世界とで、音も光も意思も抵抗によってすんなり行き交うことはなかった。 「これは、ふくれ病って言ってね、このままじゃあクァシンちゃん、三日後に破裂しちゃうよ。それで中から大

16 誰の家?

 ある時、アイが「今日は疲れたな。アイルームに帰ってぐっすり寝よう」と、巨大樹のところまで帰ってくると、自分の場所であるはずのその部屋に、ハイラックスが三匹、耳を垂らしてくつろいでいました。 「ちょっと、勝手になにしてるの。ここは僕の部屋だよ」 「違うね」ハイラックスの中でも一番小さいのが言った。「もうおれらの部屋だ」 「違うわけないよ。ここは僕の部屋で、知らない人が勝手に住んでいい場所じゃない」 「しかし、これを見ろ」そう言ってハイラックスが取り出したのは権利書でし

15 アイの何気ない一日

5:30 この日、アイは自分でもびっくりするくらい、早起きした。 しかも、二度寝ができないくらい目がはっきりとしている。 することがない。 とりあえず、お腹が空いているので、冷蔵庫の中を見た。 パンケーキを作って、その上に目玉焼きとベーコンを乗せることにする。リンゴジュースもあと一杯分残ってるし、最高の朝食ができそう。 6:45 朝食を食べたあと、溜まっていた食器を洗った。 今日は家事の手伝いにタニシの女神が来てくれる予定だったが、おかげでほめられそう。片付いてゆく感覚にや

14 作りかけの物語

 アイとクァシンは転がったおにぎりを追いかけていた。  つまらない草刈りという仕事を二人ですること(未定)  昼食をしていたら、アイがおにぎりを落としてしまったのだ。  おにぎりにはころころ転がり、石に当たって跳ね飛び、鳥の足に引っ掛かり、落ちて、跳ねて、転がって、ちょうどそこに走ってきた子どもの足に蹴られて飛んでいき、家に転がり入ってリビングを通り過ぎると、庭にいた二羽の鶏につつかれて跳ね上がり、馬の背中を転がって、丸太の橋を渡り、つむじ風に浮かび上がると、そのまま移動し

「檸檬の上」

町にはお肉屋さんだとか、演劇ステージなどもありますが、大通りの交差点の角には、「カクゼン」という書店もあります。 カクマゼンイチという人の立ち上げた書店で、そのカクマゼンイチが店主で、シカックスというバイトの少年が働いている店となります。 あまり広くはないけれど、二階があるということで珍しがられているお店。 一階はピロティーと言って良いでしょうか? (一応夜になるとシャッターで閉じることはできるのですが、開店中は開けっぱなしです。この場合の名称を知っている方はぜひコメント欄

13 孤独王の恋

 レディーネ、我が命の光、我が胸の炎。我が罪、我が魂、我が、我が——  レ・ディー・ネ。孤独王の魅惑的な声が低く響く。……あぁ、愛しの……レ・ディー・ネ——  孤独王が、八百屋に母親と一緒に買い物に来ているレディーネに一目惚れをしたのは、村の悪戯っ子にまじってタイガーデニッシュをいじめているときだった。タイガーデニッシュの靴を取り上げて、高く放り上げていた横で、ほんの九歳の幼い子どもであるレディーネは、母親のスカートの裾を持って立っていた。大根を蔑んだように見つめるその目や

12 花嫁の歌

 花ムコと花ヨメは笑顔でその様子を見守りました。二人の両親が互いに握手をたのです。  ようやく和解することができました。ようやく分かってもらえました。花ムコは花ヨメの両親に理解してもらえたし、花ヨメも花ムコの両親に理解してもらえたのです。  晴れて結ばれた二人。  花ムコ、花ヨメはアイとクァシンに感謝をしてもしきれません。 「君たちのおかげで僕らは結ばれることになったよ、本当にありがとう」 「わたしたち、あなたたち二人への感謝を絶対に忘れないわ」  手を繋いだ花ムコと花ヨ

「彼女の譲れないもの」

 ワールドザワールドの女神は誇らしげにルービックキューブを掲げた。  ルービックキューブは六面きれいに揃えきってある。アイは足が18本あるミツバチを見つけた時と同じくらい驚いた。 「すごいよ。なんでそんなことができるの。僕には一面を揃えるのだって無理なのに。だってね、最後の一つを持ってこようとすると、三つくらいどっか行っちゃうの」 「まあ、これくらいできないと、わたしの仕事は務まらないわね」  ワールドザワールドの女神は自慢げである。仕事とルービックキューブ はまったく

11 鶴

 むかしむかし、あるところに、こじんまりとした家に住んだ、質屋を商うお金もちなお爺さんがいました。  お爺さんは、妻も子どもも出来ませんでしたので、その寂しさを紛らわすためにと、一匹の鶴を飼っていたのです。  たいそう白くてそれにどの羽も油を塗ったようにキラキラしていて、何十羽の鶴が同時に空を舞ったとしても、その鶴だけは見つけることができるというほど美しく育ちました。  お爺さんはその鶴のためなら、なんでもしました。  鶴が腹を減らしているように見ると、急いで外へ出て魚を

10 胃ネズミ

「あははは。あははは」 「なにが面白いの」 「この漫画。見てここ、食べたもの全部吐いてるんだ。食べ過ぎだよね」 「なにこれ、汚い。アイ、漫画もいいけど、ちゃんと勉強しないとダメよ。いい、あなたのために言ってるんだからね。じゃあ、わたしはちょっと仕事で呼ばれてるから。ちゃんと勉強しなさいよー」  そう言い残して、ワールドザワールドの女神はアイの部屋を後にしました。  次なる仕事へむかうのです。  しかし彼女のおかげでアイの部屋はずいぶん片付きましたでしょう。見てください

9 異世界転生

「煙なわけないよ。煙の上に乗れないじゃん」 「雲の上にも乗れないんだよ」 「でも煙じゃなかったよ。雲の形だった」  アイとクァシンは巨大樹から北へ北へと進み、山の中へ分け入った森の中。  木々の間を右に左に探し物をしています。アイが目撃したと言う噂の『魔法の雲』を探しているのです。  魔法の雲とは、上に乗って移動することのできる小さな雲のことで、誰もその存在を本当にはしていなかったのですが、アイはリスが何匹かそれに乗っているのをこの山の森の中で目撃したと主張しています

8 ヒサギの憂鬱

 アイはとあるお屋敷に呼ばれました。というのも、ここ数日、この家の一人娘ヒサギが寝込んでしまって、親御さんは心配に心配を重ねて、色々と原因を尋ねるのですが、何を聞いても首を振るばかりでその理由がわからず、困っているというのです。  アイとクァシンはお屋敷に向かいました。  二人は予想以上に訪問を喜ばれ、そのままヒサギの部屋に通されたのです。  話の通り、ヒサギはベッドに横になって、肩まで布団をかけていました。 「どうしたの」  アイが聞くと、ヒサギは案外あっさりと答えま