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向こうから、あ~、っと来るような気がする。
と、86歳になる女性は、亡き旦那さまを思って言った
(先日の『街録』)。
「仕事一筋でぜんぜん」と、
そこで止めた旦那さまの思い出の先には
ぜんぜん他のことはしない、子供たちの面倒もみない、
なんていう、よくある不満があったのか。
それでもパン屋さんに勤め、朝早くから働きどおしだった
旦那さまが83歳で白血病を発症した際は、
毎日3時のおやつを持っていって、病室で二人で食べたと言う。
冒頭の言葉は、看病疲れで身体を壊してしまったこの女性が、
リハビリの散歩に出かけた折に、旦那さまと
家の前の道で出会ったときの記憶を浮かべながら、
いまだに向こうからやって来る気がすると言って
そのまま目を閉じて黙って泣いたときにこぼれた。
インタビュー中、旦那さまを褒めなかった女性の
本心が、無言の涙の底に輝く。
重ねられた日常は、それが途切れたとき初めて、
この世のすべてのようなエネルギーで人を包み込む。
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