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いい写真を撮るために編集者にできること。アムステルダム在住フォトグラファーと考える

編集者はフォトグラファーやライターと仕事をすることが多いが、そのコミュニケーション度合いを見ると、フォトグラファーよりライターとのやり取りのほうが圧倒的に多い。

フォトグラファーたちは、普段どんなことを考えながら仕事に取り組んでいるのだろうか? 一緒にいいコンテンツを作っていくにはどんなコミュニケーションが必要だろうか――?

アムステルダム在住のフォトグラファー、三浦咲恵さんにお話を伺った。

黒子に徹するインタビュー、笑顔を引き出すポートレート

――写真撮影の際に、いちばん大切にしていることは何ですか?
 まずは自然な表情を撮るように心がけています。カメラに慣れている人は割とすぐにシャッターを押せるんですが、慣れていない人は初めのうち結構ガチガチになっているんですよね。でもそういう人もある程度時間が経つとカメラが気にならなくなってくるので、表情がナチュラルになってきたなあ、という時に撮り始めるようにしています。

 あと、インタビューの時はなるべく「カシャ」という音を出さないようにしたり、カメラを小さめにしたりして、相手に圧力をかけないようにしています。気配を消して、黒子に徹するんです。

――あの「カシャ」は消せるんですね。
 はい、最近のは音が消せますよ。カフェとか撮影禁止のところなどでも、無音だと結構撮れたりします(笑)。でもモデル撮影の時などポートレートを撮る際は、逆に「カシャ」があったほうがポーズが取りやすいんですよ。「あーいいですねー!」とか、ちょっと大げさに声をかけたりするのも大事です。

――先日は三浦さんに家族写真を撮っていただきましたが、出来上がった写真を見て、皆がすごく元気に写っているのでびっくりしました。
 家族写真なんかを撮る時は、こちらがすごく元気いっぱいの笑顔で接すると、それに引っ張られて皆が元気になりますね。先日は結婚の披露宴で、私自身が写真を撮られる側を経験したのですが、その時に撮影をお願いした友人のフォトグラファーがもうすごい笑顔で、私もその人の笑顔にグイグイ引っ張られました。だから、フォトグラファーが百点満点の笑顔だと、相手もつられる・・・というのは、自信を持って言えますね。

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フォトグラファー泣かせの会議室

――インタビュー写真では、自然な表情以外に気をつけていることはありますか?
 型に決まった写真だけだとバリエーションが少ないので、例えばその時に部屋の窓から見える空とか、観葉植物の葉っぱとかも撮ったりします。それから、対象者の手、足、襟足なども撮ります。手の形がみんな違ったり、足を面白い形に組んでいたり・・・ありがちなカットでは見えないものが見えてきたりもします。
 
 インタビュー写真だけだと撮っていてもつまらないので、自分が面白いから撮り始めるという感じです。

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――編集者の伝えたいテーマを写真でよりよく伝えることも考えますか?
 テーマがあれば、できるだけそれを写真に落とし込みたいとは思いますが、いかんせんシチュエーションにも左右されます。インタビューが会議室で行われる時など、そこに面白みを出して印象づけるのは難しいですね(苦笑)。

――たしかに、会議室は辛いですね。
 蛍光灯をつけるだけで写真が平べったい感じになってしまうので、可能なら自然光が入る会議室を選んで、かつ対象者がいちばんドラマチックに写るようなところに座ってもらい、できれば途中で動いてもらって別のライトで撮る・・・などの工夫が必要ですね。

――たしかに、インタビューしている時、フォトグラファーさんはやたらと電気を消したがります。僕の場合、オランダとの時差に合わせてインタビューしてもらったりするので、日本では夕方の時間になってしまって、季節によっては薄暗いんですよね。
 その時のフォトグラファーの気持ちは穏やかではなくて、きっと10分でも早くインタビューを始めてほしいと思っていますよ(苦笑)。DJラッパーなどの撮影だと夜の渋谷とかでもいいのですが、たいていは自然光のほうがいいんです。だから、撮影は日が出ているうちが有難いですね。

――そのほかフォトグラファーとして、編集者にリクエストしたいことはありますか?
 インタビューが1時間の予定だったのに1時間半に伸びて、その後外で撮影できなくなってしまって困ったことがあります。話が盛り上がると、仕方のないことでもあるんですけどね。

 だから、撮影をインタビューの前にするか後にするかは、できるだけ前もってフォトグラファーに聞いたほうがいいと思います。私の場合、光が危うい時はインタビューの前にしてもらいますが、それ以外は基本的にインタビューの後のほうがいいですね。その人のことがより理解できるので。

 何も知らない状態で「こんにちは、初めまして。じゃあ撮りましょう」というよりも、相手の方もインタビューが終わってからのほうが打ち解けてくれるのではないかと思います(三浦さん撮影による山田ルイ53世さんのお写真。講談社「現代ビジネス」より)。

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相互理解を高めるために編集者が貢献できること

――インタビューの時、フォトグラファーは話を聞いていますか?
 基本的には撮影に集中しているので、3割ぐらいしか聞けません。テーマにもよります。全然内容が分からないような時は、話が耳から出ていく感じですが、興味があることだと、撮影を忘れて聞いてしまうことも(笑)。

 面白い時には一緒に笑ってしまったりもするし。長いインタビューの時は30分ぐらい撮影して、あとは結構聞いていることもありますね。いい表情が来た時にはまた撮影しますが。

――撮影当日には、編集者とフォトグラファーはディスカッションできないことが多いですが、どうすれば編集者とフォトグラファーはお互いに理解を高めることができるでしょうか? 
 テーマへの理解度などは、フォトグラファーの「空気読める度」にもかかっていますよね。フォトグラファーによっても仕事に対する姿勢は違うと思います。でも私自身のことを顧みると、やはりちゃんとインタビューの内容を分かっていないと、写真の表現でもかゆいところに手が届かない感じがしますね。

――インタビューの前には、相手のことなどを調べてから行くんですか?
 私は基本的に調べていきます。作家のインタビュー撮影などでは、その人の作品を読んで、小手先のファンになってからいきます。そうするとミーハー気分も味わえるし(笑)。だから、インタビュー前に相手の情報が載っているサイトのリンクやブログなどを送っていただけると、すごく助かります。

――僕はインタビューの前に「テーマ」「読者の悩み」「どんなことをインタビューで導き出したいか」をフォトグラファーさんにお知らせして、撮影してもらいたいイメージまで伝えています。
 そういうのを送ってくださる編集者はなかなかいないですよ。それはコンテンツを理解するのに役立つと思うし、編集者にとっても記事にとってもいいことだと思います。

「攻めの写真」が選ばれると嬉しい

――撮影後に編集者がピックアップした写真について、「なんでこの写真?」というのはありますか?
 昔、「これ選ぶ?」というのをピックアップされてがっかりした経験があるので、今は選ばれて自分がハッピーなものしか送りません。それでも「こういうのもっとないですか?」と言われて、仕方なく出すケースもありますけど。

――出来上がった記事を見て、がっかりすることもあるんですか?
 Webだと写真も結構使ってもらえますが、雑誌のインタビュー記事などでは、写真がすごく小さかったり白黒だったりすると少しさみしいです。

 あと、写真を勝手にクロップ(切り抜き)されると結構辛いですね・・・(苦笑)。私の場合、前ボケを多用するので、その前ボケを無視して写真を切られてしまうと、その写真が全然違って見えてしまうんですよ。だから、写真サイズを事前に知らせてもらうことも大事ですね。

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――編集者からフィードバックされることもあるんですか?
 あります。「いいですねー」とかポジティブなフィードバックはもちろん嬉しいんですが、社交辞令ではなくて、「この表情がいい」などと具体的に言ってもらえるとありがたいですね。

 それから以前、自分が「攻めの写真」だと思っているものについて、編集の方に「記事に使えるかどうか分からないけど、すごくよかった」と言ってもらえたことがあって、実際にそれは使われなかったのですが、とてもありがたかったです。

 一昔前は編集者が写真にダメ出しするのが普通だったらしいのですが、最近は聞いたことがないですね。それについては、自分が傷つかないで済む一方で、「まあまあだな」と思われているのなら、それは言ってもらったほうがいいと思います。自分自身でも反省するんですが、やっぱり編集者目線でしか出せない評価もありますから。

――これまででいちばん印象的だったフィードバックは?
 『現代ビジネス』でゴールデンボンバーの鬼龍院翔さんのインタビュー記事がすごくバズって、読者の方々から写真についていいコメントをいただいたのが本当に印象的でした。

 撮影はすごく天気のいい日で、ガラス張りの部屋にガラスのテーブルがあるという面白いシチュエーションだったので、テーブルの下に潜り込んだりして、いろんな光の屈折のある面白い写真が撮れました。

 彼らの音楽性ともマッチした「攻めの写真」だったので、「らしさが出ている」というファンからの言葉は嬉しかったですね。

――絶対に編集者の僕には思いつかないような写真もありますね。Web媒体が主流になる中で、写真はこれからますます重要になると思います。フォトグラファーさんに気持ちよく仕事をしていただけるよう、引き続き頑張ります。

編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』。
文・構成:山本直子
フリーランスライター。慶應義塾大学文学部卒業後、シンクタンクで証券アナリストとして勤務。その後、日本、中国、マレーシア、シンガポールで経済記者を経て、2004年よりオランダ在住。現在はオランダの生活・経済情報やヨーロッパのITトレンドを雑誌やネットで紹介するほか、北ブラバント州政府のアドバイザーとして、日本とオランダの企業を結ぶ仲介役を務める。

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