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eternal flame…永遠の愛 8

~前回のあらすじ~
アミールのオフィスに着いた悦子はエレベーターのボタンを押しながら、はじめてここを訪れた時のことを思い返していた…
忘れられないあの時のことを。
今回は2度目のオフィス訪問。ミーティングという名の彼のフルガダ計画にお付き合い…のように感じていた。
彼の引っ張っていくチカラに疑問を感じながらも、ホントは自分の気持ちを抑えている自分に
いちばん疑問を感じていることを悦子はわかっていた。
男女間の気持ちのすれ違い…
今回もどうぞお楽しみください。


早朝のバスターミナル、フルガダ行きのバスを探していた。
今回は二回目。しかもアミールの友人とクライアントの女性が一緒の旅。
先を行くアミールの速度になかなか追いつけないくらい、悦子は疲れていた。
連日のアクティブなスケジュールが身体にこたえていた。

「悦子、大丈夫?その荷物も僕が持つよ」
アミールの優しさも疎ましく感じていた。

「これくらい自分で持てるから、先に行って」
言ってからの後悔…言い方に棘があったかな…

アミールは親指を立ててOKの仕草を見せた。

”聞きたいことがたくさんある…
伝えたいことがたくさんある…”

この時点で悦子の胸はいっぱいいっぱいになっていたが、今回はアミールの友人、クライエントもいる…黙っておこう。
奥歯にグッとチカラを入れた。

バスを見つけた二人は終始無言でスマホをいじり、友人のアリとクライエントのノーランを待った。

「Hey! アミール!Oh! エツ!」
最初に来たのはアリだった。
アリはアミールとハイタッチをし、悦子と握手をした。

「エツコ、ゲンキデスカ?」
アリはポケットから取り出したメモを読んだ。

「え?アリは日本語が話せるの?すごい!
 ハイ。ワタシハ ゲンキデス」

「ニホンゴヲ ベンキヨウ シマス」
アリは一生懸命メモを読み上げた。

「アリはすぐに何でも飛びつくんだよ、悦子。
 すぐに飽きるに決まっている、あははは」
アミールのこの一言は負け惜しみだと悦子は
わかっていた。

アミールのそんな態度が残念でならなかった…

お互いの共通語は英語。
悦子はエジプトに限らず、訪問する国のあいさつや感謝の言葉は事前に覚えてすぐに遣えるようにしている。

これは悦子のポリシーで、相手に心から敬意を払うということなのだ。

アリに対しての負け惜しみだとしても、
悦子のポリシーまでもが否定されたようで寂しかった。

"今まで一度も日本語に挑戦しようなんて思ったことないじゃない!”

悦子は何も言い返さないアリの姿を見て、

「アリはすぐに日本語が上達するわよ!がんばって!」
少しわざとらしくガッツポーズをとった。

「Oh!  ノーラン!」
アミールは向こうからやって来るノーランに手を振った。

「ごめんなさい…遅刻しちゃったかしら?」

ノーランはアリと悦子の姿は視界に入っていないのか、アミールに駆け寄り、甘えた声と上目遣いで気を引いた。

「全然、みんな今来たばかりだから大丈夫だよ」
アミールも満更でない様子に見える。

"ちょっと何よ何よこの展開…”
悦子は不安でしかなかった。

バスの席順はアミールと悦子。アリとノーラン。

悦子はどうしてもノーランのことが気になっていたので、アミールに訊ねてみた。

「ね、アミール…ノーランはただのクライエントさんよね?」

「うん。そうだよ、言っただろう?なんで?」
アミールは悦子の質問の主旨を考えていた…

「だって、あんなに…あんなに…ん…楽しそうだからさ、もしかして彼女かな?なんて思っちゃったのよ、あははは」

一切、目を合わせない悦子にアミールが一言

「悦子、僕の彼女は君だ。わかる?そして、疑いは愛ではない」

アミールは簡潔にシンプルに悦子に伝えることが彼の気持ちで誠意だった。

悦子は何でこんなことをアミールに訊ねたのか…
そんな自分にイラッとした。

「ごめんなさい。ノーランの馴れ馴れしい態度に焼きもちを妬いただけなの…」
アミールはうつむく悦子の手を取り、キスをした。

バスは休憩のため、フルガダに向かう途中レストハウスに止まった。

「降りよう!」
アミールは悦子と2人に声をかけた。

悦子はノーランの態度にはイラッとしたが、ここは友達になるチャンス!
そう思いなおして、彼女と一緒にトイレに行こうと誘おうとしたが、
ノーランはサッサと足早にトイレに向かってしまっていた。

悦子がトイレで手を洗っていると、横にノーランが来た。

「はじめまして、私は悦子。アミールの友人です。よろしく」
悦子はそう言ってノーランに握手を求めたが、
彼女は頭に大きなクエスチョンマークをつけたような顔をして、
何も言わず、握手も返してこなかった…

”何で?何が起こっているの?”
不思議と拒否されている感覚ではなく、事情があるんじゃないか?と思えた。

ノーランは黙って胸の前で両手を合わせ、悦子に見せた。

悦子は何が起こっているのかよくわからなかったが、ノーランと同じく両手を胸の前で合わせた。

その姿にノーランはニコッと笑って、さぁ!行きましょうと出口を指さした。

トイレの出口には使用料を盗ろうとする輩がいる…
悦子は律儀にお金を払おうと立ち止まった時、ノーランは「NO!」と言い、悦子の手を引いた。

悦子は一瞬「えっ?」となったが、ノーランは悦子の手をその後も離さなかった。

「ノーラン、ありがとう!」
悦子が声をかけると、また両手を胸の前で合わせた。

”よくわからないけど、まぁいいか”
彼女は私を救ってくれたし、手をずっと離さなかったし…
嫌な人ではなさそう…そう思い直していた。

外ではのんきに写真を取り合っている男子2人。

「Hey!写真撮ろうよ」
アミールの無邪気な笑顔、久しぶりに見たなぁ~
悦子はアミールに駆け寄った。

アミールは悦子の腰にスッと手を回し寄り添った

「もっと笑って!」

アリは悦子のドキドキしている表情を見抜いていた。

アリの掛け声は悦子の腰に手を回したアミールの手にチカラを込めさせた。

”ドキドキするけど、すごくすごく嬉しい!”

女は単純な生き物かもしれない。
泣いたカラスがもう笑っている…悦子は自分をそんな風に感じていた。

「次は私に撮らせて!」
そんな様子を見ていたノーランは自分の携帯で
アミールと悦子の2ショットを撮りはじめた。

「ねぇ、もっとリラックスして~悦子、もっとアミールに寄りそって~」
ノーランはいろんな角度から何度も何度もシャッターをきった。

”ノーラン、めっちゃいい人じゃん!”

ここまで来ると、トイレでの出来事はどうでもよくなっていた。

バスに戻って、アミールにノーランとのトイレでの不思議なやり取りのことを話した。

「彼女、トイレで私と一言も口を利かなかったのよ…
 自己紹介して握手まで求めたのに、何も言わずに胸の前で手を合わせて…合掌。
 トイレの出口で使用料を払おうとしたら、
 彼女NO!って言って、
 私の手を掴んで、その場から救ってくれたのよ…
 だから ”ありがとう” って伝えたら、
 また合掌のポーズ。
 これって、エジプトでは何か意味のあることな
 の?」

アミールは頷きながら聞いていた。

「で、悦子は彼女の行動をどう思ったんだい?」

「どうって…まずはエジプトでの何かしらの歓迎の仕方かな?とか習わしかな?とか…」

「いや、そうじゃなくて…彼女に対してどう感じたか?ってこと」
続けようとする悦子にアミールが挟んだ。

「あ…うん…嫌な感じはしなかったの。日本でこんな仕草されたら…
 馬鹿にされてるって思われるかもしれないけ ど、全く馬鹿にされてるなんて思わなかったし、ノーランの精一杯のよろしく!なんじゃない
かな?なんて思ったの。
 はじめましてが得意な人もいるだろうし、苦手な人もいるじゃない?
 私は得意な方だから正直、「?」ともなったけどね。
 言葉ではない相手への敬意の表現の仕方を彼女から教えてもらえた気がするのよ」

「That's you!」  それでこそ君だ!

アミールは満足そうだった。

アミールのこの一言で、モヤモヤしていた悦子の気持ちは一瞬でパッと晴れた。

”せっかくエジプトまで来て、こんなモヤモヤは損損!楽しもう!”

悦子は改めて気持ちを入れ替えた。

「悦子、もうそろそろ僕たちのホームに着くよ!懐かしいだろ?」

「あれから一年経つのね…私、いつかここに住みたいって思うの。
 毎日穏やかな海を見ながら、あなたと穏やかにくらしたいなぁ」

「僕も心から願うよ。まずはもっとお互いを知り合おう」

「そうね…お互いをもっと知り合わないとね」

「そう…もう僕は間違いを犯したくないんだ…」
アミールの顔が少し曇った

バスはゆっくりとフルガダのターミナルに入って停車した。




「わわわわぁーっ!悦子さん、こんな豪邸に住んでいらっしゃるので、で、ですかぁ!」

フルガダの自宅に到着すると、恭子は大きな声で叫んだ。

「あっ…もう着いたんだ…」
悦子は今までのアミールのことを思い返していた。

「何だか変ですよ~悦子さん、心ここにあらずって感じ…お疲れじゃないですか?」

「大丈夫よ…ありがとう。年齢には勝てないのかなぁ…あははは。さぁ、恭子さんエントランスは向こうよ、ご案内するわ」

悦子と恭子は車から降りた。

「ファトマ、ありがとう。パーティーには絶対に来てね。ご主人と子供達にもよろしく!」

悦子はそう言って、ファトマに気持ちばかりのチップを渡した。

「エツコ、アミールサンニ イエニ ツイタ ト レンラク シタホウガ イイデスヨ。 コレ、アリガトウ」

「了解!ありがとう」
そうは応えた悦子だったが、ファトマにまで心配をかけさせていることに心が曇った。

”このままじゃ何となく、嫌…。明日、アミールが来た時に
ちゃんと自分の気持ちを伝えよう”

そのためにも自分の気持ちをちゃんと整理しなきゃ!と悦子は決めていた。


次回、eternal flame …永遠の愛 9
お楽しみに♡









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