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In my bag Ⅰ レッスンバッグ

 妹がピンクでわたしのは赤。ママがおそろいで買ってくれたレッスンバッグに入れるもの。バイエル、ポコアポコ、ソルフェージュと7色の色えんぴつ。

 レッスンは先生の家のハナレにある部屋でする。妹が4時からでわたしは4時半からだから、妹が習ってる間わたしはレッスン部屋にあるソファにすわって、本だなの「パタリロ!」とか「ポーの一族」を読んでまつ。

 まんがを読んでいると30分なんてあっという間なんだけど、レッスンしてると30分はめちゃくちゃ長い。家であまりれんしゅうをしないので先生によくしかられる。

「さなえちゃん、先週よりもへたくそになってるよ」

 ほら、今日もおこられた。

 本当のところ、わたしはピアノが好きじゃない。習いたいとも言ってないんだけどママが習ったほうがいいって。「ゼッタイオンカン」は子どものうちにしかつけられないんだってさ。わたし、それ、いらないんだけど。

 それにこのレッスンですごくいやなのが、5時からレッスンのリュウイチっていう5年生の子がすごく早くレッスン部屋に来ること。れんしゅう曲やってる時に入って来るから、わたしがおこられながらへたくそにひいているのを聞かれちゃうんだよね。

 それにリュウイチって子は、ソファで「あさりちゃん」を読んでまってる妹の横にすわるんだけどね。いつもわたしのレッスンバッグのキーホルダーいじってるんだよ。わたしから見えないと思ってるのかな。妹ももくげきしゃなんですけどね。

 この前はっぴょう会があってね。わたしは「モルダウの流れ」をひいたんだけど。3回まちがった。まあごまかせたとは思うんだけどさ。おじいちゃんたちはすごくほめてくれたし。

 中学生とか、小学生でも上手な子たちは後のほうでひくんだけどね。そのリュウイチっていう子はすっごくうまくてさ。先生によると「オンダイに行くレベル」らしくて。わけわからない長い名前の曲をひいてたよ。

 リュウイチって子のえんそうが終わったあと、ママが「リュウイチくんってかっこいいね」って言ってきて。そしたら妹がなぜか私のかおを見てにやにやしてきてさ。頭にきたから妹をつねったよ、なまいきだよね、妹、1年生のくせにさ。

 とりあえずピアノをやめるとママに言うのはもう少しあとにする。ブルグミュラーとハノンになってからでもいいかもしれない、と、思ってるんだ。


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