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もしも私が女優なら

この散文詩は私とみたかの小さなプリン屋さんとのコラボ企画「プリン屋さんとフランスかぶれ」用に書いた作品です。今回はふたり同じテーマで書きました。


もしも私が女優なら、「逃げる」役どころをぜひ演じてみたい


古代都市に異常発生したゾンビたちとの戦いで一切の武器を失い、その群れから逃げるしかなくなったグラディエーター

家族の仇をとるために凶悪犯罪を犯し、警察に追われ町から町へと身分を偽りながら逃げる主婦

一途な男の愛から逃げるべく、朝の食卓に置手紙一枚を残して電車に乗るジャズシンガー

機密情報の入ったUSBをひょんなことから手に入れてしまい、そのせいで巨大組織のスパイ達から逃げ惑うことになるOL

正体不明の怪獣が上がってきた砂浜で、採っていたアサリの入ったバケツをひっくり返して逃げる漁婦

ある日すべての仕事や贅沢な暮らしから逃げ出して、南の島へ向かうIT社長

無実の罪を着せられ、収監されるも執念で脱獄し刑務官達から逃げるダンプ運転手


そんな役だったらギャラや労働条件は厭わない


息せき切って

悲しみを押し殺しながら

抑圧から解放され

血まみれになりながら


私は生き生きと演じるだろう


自信なさげにオファーを提示する若い付き人に、私は指に挟んだタバコの火をもみ消しながら言う

「この役、受けるわ」

実生活ではいろんなものを追いかけては逃げられ、振り切られる私

せめてスクリーンの中では思う存分に何かに追いかけられたい





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