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B線TNS日記21 丸谷才一「女ざかり」読了

某月某日 TNSにて

昔読んだ小説を再読するのは面白い。あらすじの大枠だけは覚えていて、細かいところはほとんど忘れてしまっている場合もあれば、もうどんな話だったかすらも覚束ないが、ところどころの情景描写や登場人物の台詞などのディテールだけは鮮明に覚えている本があったりもする。

読書好きな友人と、本を貸し借りしていて、ふと丸谷才一の話になった。話しているうちに、「女ざかり」をもう一度読んでみたくなり、約20年ぶりに読み始めた。その筋や登場人物についてはかなり覚えていて驚いたのだけど、作品を読んでの感想は今と昔ではかなり違っていた。

(以下、少しネタバレあり(?)なので未読の方はお気を付けください。)


独身の頃に読んだときには、「女ざかり」という題とは裏腹に、この物語は実は女性が主役ではなく、主人公の新聞記者南弓子を取り巻く男性たち主体の物語だなと思ったものだった。弓子が独立した45歳の女性であるにもかかわらず、自分の職業人としての地位を脅かすある問題が起きた時に、自分では解決をつけられず、付き合いのある男性たちの助けで結着をつけていくところがなんとも嫌だった。主人公の娘で女子大生の千枝も、その若さと美貌でインテリ男性たちを魅了し、母の問題解決に一役買うのだが、母子ともに頼る男たちは自分より年上の、政治家、芸術家、裏の世界の親分、大学教授や官僚など、権威的な男たちであるところにも引っかかってしまった。

主人公の南弓子とほぼ同年齢になって読んだ今回はもう少し柔軟な気持ちで、物語としての面白さを味わうことが出来た。作者自身が男性であるし、この作品が書かれたのも今より30年近く前、女性の描かれ方はいたしかたないのかもしれない。それに、問題解決については男性たちの力を借りつつも、最終的には弓子自身が決着をつけたのだと思った。

軽妙で、知的でおしゃれな筆致で、いい意味でするすると軽く読めてしまう。流れるようなストーリーのそこかしこに丸谷氏の哲学が散りばめられていて、ふむふむすることも存分に出来る。

登場人物全員がひと癖もふた癖もあって魅力的なのが良い。私のお気に入りは大沼晩山です。(既読の方いたら語りたい!)

大林監督で映画化もされているがまだ観ていない。近いうちに探して観てみようと思っている。南弓子役は吉永小百合だそうだ。今撮るとしたら誰なんだろうとか考えたりもする。

というか私って今、女ざかりの年頃なのか?さっきもスエット履いてスーパー行ってたけれど。



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