娘よ、好きな色を選ぶがいい
うそ?こんなに人いるの?
某ランドセルブランドの展示会に来た感想だ。
3週間前にネットで予約した、ランドセルの展示会。私はなぜか、ゆったりとランドセルを選ぶ雰囲気を想像していた。
子どもが好きな色のランドセルを見つけ、手を伸ばし、背負ってみて、少しはにかむ。それを微笑ましく見守る…。
ランドセルブランドのイメージムービーを見すぎたせいか、ランドセルを選ぶ瞬間に他者の存在はいないものだと思っていた。
しかし、訪れた展示会は違った。
午後14時の回に予約した数十名が一斉に入場し、制限時間が与えられる。色とりどりのランドセルが展示されているが、人気のカラーのランドセルは、次から次への小さな背中に背負われて、なかなかフリーにならない。
鏡を見ようにも、前にも後ろにも人がいる。なんだかバーゲンセール会場の雰囲気にも似ているようだ。
入場前。
会場に入るようにアナウンスされて、おなじ時間に予約した親子が扉のまえに並ぶ中、私は娘の前にしゃがんで話しかけた。
「いい。好きな色のランドセルを見つけたら教えてね。ピンクでも紫でも水色でも何色でもいいよ」
「うん」
「無理して選ばなくてもいいからね。好きな色がなかったら、この中には好きなの無いって言ってね」
「うん」
「最後に、今日はランドセルを見に来ただけ。今日は買って帰らないからね」
「わかった」
できるだけ簡潔に、今日のミッションを伝えた。娘には、事前に目的を簡潔に伝えておくと良いということを母親5年目にして、私はようやく学習した。習い事の体験やイベントに出かけても、こちらの思惑通りにいかないことが多かったからだ。
こどもミュージカルを観劇しても、開始3分で「帰りたい」と言い出したり、英語の体験に参加して、最初から最後まで「おなら」「おしり」を連呼してたり。観覧車に乗っても、ケータイを見たがって外の景色を一切見なかったり。
舞台上で繰り広げられるダンスと歌を観てほしい。
「ハロー」と言われたら「ハロー」と返してほしい。
眼下に広がる景色を見てほしい。
私の思惑や願望が崩れ落ちる度に、「なぜ」「どうして」と考えて、「普通」にこれくらいできないものかしら、と不安に襲われてきた。
母親業5年目にして気付いたことは、事前の情報の少なさだったように思う。つまり、目的の存在が不明確なために自由な(に見える)行動につながっていたのではないか、と考えるようになってきた。
私は自分でも引くぐらいズボラだ。保育園のお便りもあまり読まない。
不妊治療の末に授かった一人っ子なのに、だ。
ズボラ具合を話すと、驚かれる。しかし、待望のわが子であっても、私のズボラな性格を改変させることはできなかった。
保育園の持ち物も、たいてい忘れたり、前日の夜に気付いたりとてんやわんやだ。たまに、すごくマメな人っているが、私の眼には信じられないくらい神々しく見える。
保育園で唯一、気兼ねなく話せるママ友が、まさにマメな人なのである。その彼女は、保育園の予定も持ち物もいつも完璧で、わからないことがあれば先生に質問したりする人なのだ。
彼女は、保育園のお便りで来月にお散歩があることを知ると、1か月以上まえから「お散歩、楽しみだね」など会話をするらしい。もちろん、数日前から「〇〇でどう遊ぶのかな」など会話をしていると聞き、驚愕した。
私にいたっては、登園の時に思い出し、お迎えの時に「どうだった?」と聞くだけだった。娘の回答はお散歩にまつわる話ではなく、お迎え直前の「おならプー」の言い合いの話をするだけで、お散歩が一体どういったものか、
全くわからないまま過ぎていっていた。
しかし、先の彼女とその娘さんたちは、しっかりとお散歩について質問したり感想を話したりすると聞いて、再び驚愕した。
そんな私が、たまたま合理的配慮の本を読んだときに、指示の理解が困難な場合、「事前に指示や手順を簡潔に示す」と効果的であることを知った。
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/pdf/gouriteki_hairyo/print.pdf
確かに、保育園のママ友を見ていても、事前に情報をどれだけ与えたかが、本人の捉え方に影響するのでは感じるように。
それからではあるが、事前に簡潔に、目的や手順を話すようになった。
ズボラなので、忘れることが多くて娘には迷惑をかけていると思うが、ようやく事前に伝えておくことの大切さに気付き始めた次第である。
ランドセルの戦場に足を踏み入れる前に、できるだけ簡潔に、今日のミッションを伝えた。
ズボラな私が忘れずに伝えることができた。グッジョブ!
このランドセルの展示会、わけも分からないままに終わってほしくない。そう思った。一番伝えたかったのは、「無理して選ばなくてもいいからね。好きな色がなかったら、この中には好きなの無いって言ってね」というものだ。
娘には、親の思惑なんか気にせず、好きな色を選んでほしい。
親の思惑なんか気にするなという、こちらの思惑を伝える。
文字にすると、なんだかよく分からない感じだが、シンプルに言うとこういうことだ、
娘よ、親の思惑なんか気にせずに、好きな色のランドセルを選ぶのだ!
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