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ある奴隷少女に起こった出来事 (ハリエット・アン・ジェイコブズ)

(注:本稿は、2014年に初投稿したものの再録です)

 以前勤めていた会社の同僚の方からのお勧めで読んでみました。

 評判どおりの良書、改めて “人として大切なこと” を深く深く考えさせられる内容です。

 舞台は19世紀のアメリカ南部。主人公は、あるときから自分が奴隷であることに気付かされ、その悲惨な境遇に陥った少女です。

 奴隷制は、「人間が人間によって物のように売買され、所有される制度」でもありました。
 本書の最終章は、主人公リンダ・ブレント(=著者)が「自由」になるところを描いているのですが、それは、こういう形でした。

(p285より引用) 次の郵便で、ブルース夫人から、次のような短い便りを受け取った。
「うれしいお知らせです。あなたの自由を保証するお金が、ダッジ氏に支払われました。明日うちに戻っていらっしゃい。・・・」
 ・・・傍にいた紳士がこう言うのが聞こえた。「これは本当のことですよ。私は売買契約書を見ましたから」
「売買契約書!」-この言葉は、思い切りわたしを打ちのめした。とうとうわたしは売られたのだ!人間が、自由なニューヨークで売られたのだ!・・・この紙切れが意図する価値は十分にわかっていたが、自由を愛する人間として、これを目にする気にはなれない。

 奴隷が自由になるためには、自分で自分を買うか、心ある所有者にその所有権を放棄してもらうしかなかったのです。リンダの場合は、心優しいブルース夫人が、リンダを「買い取り」、そして自由にしたのでした。

 本書は、主人公自身が記した“実話”だと言います。
 ここでは詳細には紹介しませんが、リンダとその家族の境遇は筆舌に尽くし難いものでした。しかし、まだ彼女たちは、艱難辛苦の末、最終的には自由を手に入れることができました。リンダと同じような境遇の多くの人々は、同じ人間に所有され続けることでその一生を終えたのでした。

 過去の一時代、一体全体どういう理屈で何であんな不条理なことが罷り通っていたのか・・・、人間の狂気が普遍的に実在していた時代が確実にあったのです。

 本書を読んで最も私の印象に残ったくだりは、リンダの弟のウィリアムの言葉でした。

(p42より引用) 「鞭で打たれる痛みには耐えられる。でも人間を鞭で叩くという考えには耐えられない」

 彼もやはり奴隷の身分です。この言葉が、10歳にも満たないような子供から発せられたものだというのが余りにも衝撃的です。



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