ピカソは本当に偉いのか? (西岡 文彦)
(注:本稿は、2015年に初投稿したものの再録です)
知人のレビューをみて興味を持ちました。
「ピカソの絵って、どこがスゴイの?」、初めてピカソを観た多くの人が抱く疑問です。私もその一人でした。
著者の西岡文彦氏は、本書で、「ピカソとその作品にまつわる素朴な疑問」に答えていきます。
たとえば、ピカソの作品が高い値段で取引される理由。
それは「画商の戦略的活用」にあったと言います。
とはいえ、その前には環境の変化、すなわち「画商」の介在による「絵画ビジネス」の興隆がありました。
絵画彫刻のスポンサーが教会・王侯貴族から新興富裕階級に移りつつあるとき、前衛絵画として「印象派」が登場し、急激に評価を高めた彼らの作品は市場において高値で取引されるようになっていたのです。
ピカソは、自らの画家としての類まれな才能に加え、まさに商人としての感覚をもって世の時流をも味方につけました。
この「時流」という点では、絵画が置かれたポジションの変化もピカソにとって追い風だったようです。
教会美術・王侯美術の時代の絵画は「写実」を重んじた “実用的機能” を課されていました。それが、市民の時代になり、技術的にも「写真」の登場により、その地位が大きく変動することになったのです。
この「スタイル」が画壇の中で芸術的な意味での主義・主張になっていくのですが、この流れに、ピカソの「キュビズム」がまさに “はまった” のでした。
さて、本書を読み通しての感想ですが、著者は、門外漢としての私に、美術界の歴史やからくり等に関する様々な興味深い知識を教えてくれました。
その中で、最後にひとつ、特になるほどと感じた指摘を書きとめておきます。ピカソに代表される “前衛芸術”に対する「進化論」の影響についてです。
革新を追求した “前衛芸術” は「美を生き残らせる」ために論理必然的に登場したものだとの捉える考え方。過去の「美」についての常識を覆す “前衛芸術”の論理に、「進化論」が “科学的な根拠”を与えたとの主張です。
これは、なかなか興味深い指摘ですね。
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