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逆襲される文明 日本人へIV (塩野 七生)

(注:本稿は、2019年に初投稿したものの再録です)

 塩野七生さんの著作は、代表作である「ローマ人の物語」シリーズを始めそこそこ読んでいますが、本書はちょっと前に出た「日本人へ」というシリーズもののエッセイ集です。

 読んでいてまず印象に残ったのは、“歴史に接する態度” についての塩野さんの姿勢です。

(p83より引用) 歴史事実は一つでも、その事実に対する認識は複数あって当然で、歴史認識までが一本化されようものならそのほうが歴史に接する態度としては誤りであり、しかも危険である

 そのとおりですね。“危険” という認識も含めまったく同意です。

 また、「脱・樹を見て森を見ず」とのテーマで語られた「歴史上の数々の難題の発生要因は『手段の目的化』である」との指摘。

(p87より引用) 人間社会にとっての「森」は、つまり最高の目的は、平和の樹立にあると思っている。「樹」は、その目的を達するための手段にすぎない。にもかかわらず人間とは、樹を前にしただけでどう枝葉を切り払うべきかで意見が分裂してしまい、言い争っているうちに樹は森の一部でしかないことを忘れてしまう。これを、「手段の目的化」という。「手段の目的化」による最大の弊害は、問題が横道に横道にと逸れていることに、誰も気づかなくなってしまうことなのだ。ニッチもサッチも行かなくなってしまった難問題とは、手段の目的化の結果にすぎない。ウクライナ問題しかり、パレスティーナ問題しかり、EUの経済政策しかり、そして日露・日中・日韓をめぐる諸々の問題もしかり、である。

 これも流石に的確ですね。
 こういう “物事の本質の捉え方” はとても勉強になります。



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