大人の極意 (村松 友視)
(注:本稿は、2016年に初投稿したものの再録です)
いつも行っている図書館の新着図書の棚で目に付いたので手に取ってみました。
村松友視さんお得意のエッセイ集です。テーマは、歳を重ねた“大人”の魅力ですが、その中身は村松さんの多彩で豊かな交遊録でもあります。
そういった中で、特に私の印象に残った方との絡みの場面を書き留めておきます。
お一人目は作家吉行淳之介さん。
若いころ、村松さんが中央公論社の文芸誌で担当をしていた縁で吉行さんとのお付き合いが始まったそうです。
そのころから吉行さんは、作家と編集者を上下関係で考える人ではなかったとのこと、村松さんが物書きとして活動をし始めたころのエピソードです。
なるほど、これはちょっと痺れるアプローチですね。
こういったちょっと気になる大人の振る舞いを書き連ねた本書ですが、村松さんが幼いころ大人の世界だと感じたのが “噺家” の姿でした。
特に、高座への“出”、さげの後の“入り”に一流芸人の虚実の切り替えを見、そこに噺家の格を感じていたといいます。
そこに登場するお二人目は、三代目古今亭志ん朝師匠です。
「実に熱くない表情のご挨拶をし」という表現は至極的確ですね。こういったそれまで立てていた観客をいきなり突き放したような「冷めた瞬間」もなかなかいい味わいなのです。
当時、志ん朝師匠と双璧と謳われた二代目桂枝雀師匠もまさに同じような感覚を抱かせる噺家でした。本編のハイテンションな話しぶりとの落差にはゾクッとするものがあります。
寂しいことに、今、こういった風情の芸人さんにはとんとお目にかからなくなりましたね。
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