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もしも、あなたが「最高責任者」ならばどうするか? Vol.1 (ビジネス・ブレークスルー大学総合研究所)

(注:本稿は、2016年に初投稿したものの再録です)

 レビュープラス(当時)というブックレビューサイトから献本していただいたので読んでみたものです。

 「あなたが●●の責任者ならばどうするか?」という質問形式で、実存組織の課題解決を考えるケーストレーニング本です。
 本書で取り上げられているのは、8つの組織です。
「The Coca-Cola Company」「ローソン」「NTT」「UBER」「任天堂」「東京ガス」「沖縄県知事」「イオングループ」

 本書で示されている課題解決のアプローチ方法はとてもオーソドックスです。
 基本は「3C分析」で、その分析から各企業・組織の“採るべき戦略”を導き出しているのですが、もちろん、それに「正解」があるわけではありません。「把握した情報を、どう解釈・評価して、どういうプロセスで打ち手を導き出していくのか」という考える姿勢が重要との主張です。

 とはいえ、やはり、提示された戦略の具体的内容も気になります。

 その点で言えば、たとえば、「The Coca-Cola Company」の章で示された戦略案は、極めて「平凡」ですね。これは、あまりにも現状の課題が明確(マーケットニーズと製品ポートフォリオのアンマッチ)であることから当然の結論ではあります。

 また、「東京ガス」も、ちょっとがっかりの部類です。

(p130より引用) 東京ガスの戦略案
戦略案1 資源開発業者や大手電力・石油元売事業者などと提携し、総合的なエネルギープロバイダーへの転換を図る。
戦略案2 携帯電話やインターネット、通販など、身近な生活関連サービスとの連携を強化する。
戦略案3 スマートグリッド・スマートハウスといった新ビジネスと連携した省エネソリューションを展開する。

 この戦略なら、別に東京ガスでなくても電力やガスの自由化に対応する既存企業であれば同じく当てはまるものでしょう。
 その中でも「東京ガス」ならでは、たとえば首都圏にインフラを持つ強みをどう差異化要因として生かすのかといった視点から、都市部ならではの地勢的特徴や住民特性を踏まえた生活サービスとのアライアンス提案等、もう一歩・二歩踏み込んだ具体性が欲しいですね。

 他方、「NTT」の場合は、戦略の実効性の面で納得感がありません。

(p69より引用) プラットフォーム戦略としての決済サービス、共通ポイントプログラム、そして固定と携帯の一体化案・・・これでNTTは圧倒的に強くなります。

 まあ、プラットフォーム戦略・固定と携帯の一体化あたりは至極当然。課題は、グループフォーメーションであり制度的制約であり、内的・外的等々それが実現できない原因をどう解消していくかにあるわけです。

 また、大前氏はよく「決済」とか「請求」を戦略の手駒にあげますが、後発企業にとっては、私はそれほど強みになるとは思いません。
 決済サービスの展開については、その具体的解決案が(大前氏お得意のM&Aである)「銀行の買収」だとされていますが、買収できる程度の銀行で何ができるのか、まさに強みのない事業に他力依存で足を踏み入れて、一体どう「具体的戦術」を描くのか・・・、現実感に乏しい提言だと言わざるを得ないですね。

 本書で唯一「面白い」と思ったのは、強いて言えば「沖縄県」に対する提言でした。
 基本は「規制緩和」をベースにしたものですが、その活用を「医・食・住・教育」というジャンルに絞り本土や海外ニーズとマッチングさせるというのは、アイデアとしては戦略的であり、施策の具体性も感じられます。

 まあ、本書を読んで「なんだ、こんなものか・・・」と批判はいくらでもできます。「じゃあ、お前ならどう考える?」と問い返されて、キチンとした事実認識と分析から、オリジナリティのある打ち手を示すことができないとダメなんですね。
 かく言う私は、まさにそういう “口先人間” なので・・・。

 その意味で、改めて自らを省みる機会を与えてくれるという点では「良書」の部類なのだと思います。



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