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ターゲット ゴディバはなぜ売上2倍を5年間で達成したのか? (ジェローム・シュシャン)

(注:本稿は、2016年に初投稿したものの再録です)

 レビュープラス(当時)というブックレビューサイトから献本していただいたので読んでみました。

 著者は、2010 年にゴディバ ジャパン社長に就任し、日本におけるゴディバの業績を飛躍的に高めたたジェローム・シュシャン氏
 フランス人ながら弓道歴25年、「正射必中」、ビジネスの要諦を弓道に擬して語った著作です。

 外国人が弓道に関して語った書物としては、以前「日本の弓術」という本を読んだことがあるのですが、その内容が著者オイゲン・へリゲル氏の日本での弓道鍛錬の様を通しての文化論的記述であったのに対し、本書は、弓道の言葉をなぞったビジネス本です。

 弓道では「的と一体になる」という教えがあります。ビジネスの世界では「的」は「顧客」に相当するのでしょう。

(p18より引用) 私にとって、ビジネスの秘訣とは、「当てる」ではなく、「当たる」ところにあります。お客様という的を狙わずに、「当たる」というヒット現象を起こすのです。この「当たる」という現象を起こすためには、お客様の気持ちと会社の行動が一体にならなくてはならないのです。・・・ターゲットであるお客様と心を一体にしたとき、お客様との距離は消滅し、本当のヒット(当たる)が生まれるのです。

 お客様がゴディバに抱く印象は、なんと言ってもブランドが醸し出す「高級感」です。この高級感ゆえにお客様はゴディバの店を訪れにくくなっていました。ごく稀に、大切な人への特別な贈り物を求めるときぐらいしかゴディバの店に立ち寄る機会はありません。
 こういった現状を踏まえて、著者が取った戦略プランは次のようなものでした。

(p20より引用) アスピレーション(憧れ)&アクセシブル(行きやすい)を実現する。
 「憧れ」は心で思うこと、そして、「行きやすさ」は実際にそこへ行くという身体の行動です。これは相対するものではなく、両立が可能なのです。

 著者は、自分へのご褒美としてのゴディバをアピールする “MY GODIVA キャンペーン” やコンビニを販売チャネルに追加する等、「行きやすさ」も訴える施策を次々に展開し、日本における売上を大きく伸ばしました。

(p23より引用) お客様との距離が消滅すれば、狙わなくても当たる。

 この「的を狙う」のではなく「的と一体になる」という考え方は、元セブン&アイ・ホールディングス会長鈴木敏文氏の持論である “「顧客のために」ではなく「顧客の立場で」” との教えと同根のものですね。

 もうひとつ、弓道における「正射必中」という考え方。
 これは、「正しく射られた矢は必ず的に当たる」という意味です。抽象化していえば、「結果は正しいプロセスについてくる」ということです。

(p36より引用) そう考えると、「正射必中」は、「あなたのできることをその場その場で丁寧にやりなさい」という励ましの言葉であることに気づきます。

 本章で語る著者のビジネスの要諦は、「結果がすべて」という考え方とは相反するものです。

 このプロセス重視の考え方は、日本での成功の秘訣ではありましたが、欧米でも通用する共通解であるとも指摘しています。
 この「プロセス」、弓道でいえば実際に弓道場で弓を射る際のルーティンもそうですが、日頃の「稽古」もそれにあたります。

(p 91より引用) 弓道には「数稽古」「工夫稽古」「見取り稽古」の三つの稽古があります。・・・そして、稽古の中でも特に大切なのが「見取り稽古」です。この稽古は、人の射技や、先生がどう教えるかなどを実際に見ることで自分の問題点を発見し、矯正していくことができるのが大きなメリットです。

 この「見取る」という行為は、ビジネスでいえば “顧客に学ぶ” “競合に学ぶ” という姿勢につながります。

 著者は、外国人であるが故に、素直に「日本市場」を知ろうとしました。
 それは、ゴディバでも、その前のリヤドロジャパンの社長であったときもそうでした。著者自らが売場の声を聞いて発案したのが「リヤドロの雛人形」でした。これは、リアドロ史上でも空前の大ヒットになったのですが、その背景には「久月」の協力があったといいます。

(p99より引用) スペインの高級磁器会社であるリヤドロが、日本の伝統的な雛人形や五月人形の世界に参入したとき、久月の皆さんが寛大で親切だったこともここに記しておきたいと思います。彼らは、リヤドロを日本人形協会に参加させてくれただけでなく、日本全国の人形店を紹介してくれました。また、リヤドロの雛人形や若武者を実際に販売してくれました。・・・競合でありながら、ウィン・ウィンの関係を築けたのです。久月はトップブランドでしたが、私たちのことを対等に扱い、尊敬もしてくれました。

 とてもいい話ですね。

 こういったエピソードもそうですが、本書のいたるところで著者ジェローム・シュシャン氏の人柄が表れた記述がみられます。若いころ「禅」に興味をもって来日したとのことですが、その穏やかな語り口には好感が持てますね。

 ビジネス書としては、特に目新しい指摘があるわけではありませんが、「弓道」の教えを基軸に確固としたビジネススタイルを築き、その基本姿勢のもと、顧客志向の具体的な打ち手を次々と繰り出し着実な成果を上げている様子は、私自身、自らを省みるための大切な刺激になりました。



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