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三体(三部作) (劉 慈欣)

(注:本稿は、2021年に初投稿したものの再録です。)

 知人の読後感でも評判がよく、現代中国最大のヒット作ということだったので手に取ってみました。

 中国人作家によるSF小説は初めてです。
 当然「ネタバレ」になるようなコメントは控えますが、評価の高い「翻訳小説」は、本質的な原作の素晴らしさに加えて、翻訳者の筆力・表現力が秀逸ですね。本作品でいえば、こんな表現の箇所がそれにあたります。

(p323より引用) 文潔の記憶の中で、人生のこの時期はまるで他人事のようだった。ひとひらの羽毛が家の中に舞い込むように、見ず知らずの他人の人生のひとコマが、自分の人生に舞い落ちてきた気がした。

 さて、本作品、「三体」が450ページ、「三体Ⅱ 黒暗森林」が上下合わせて680ページ、「三体Ⅲ 死神永生」が上下合わせて880ページ、三部作トータルで2000ページ。正直、読み通すのはかなりの苦行でした。長かったです。

 読み始めたのはいいのですが、第1作目の「三体」は冗長な描写も多くメリハリやスピード感が感じられませんでした。とはいえ、途中で止める決断もつかず、第2作目にトライしたのですが、1・2作併せて何とか形にはなりましたね。2作目の最後、山場のシーンでようやくスペクタクル感が出てきました。

 そして、第3作目、これはどうでしょう。
 “次元” を操ったSF的な舞台設定は優れていると思いますが、前2作に比較して登場人物どうしの絡みのウェイトが増えてくると、人物描写、背景も含めた動きや心情の書き込み方は今ひとつだと感じてしまいました。その点が「物語」として入り込めなかった最大要因ですね。

 ラストはこういう形でいいのですか。
 極限まで究極を追求した構想は驚きではありますし、これだけの大作の結びとしては相応しいとも思いますが、正直なところ、私にはしっくりとは収まらなかったですね。精緻な理論が先に立っているわりには、描かれている具体的な事象(人の行動)は少々雑にみえ、せっかくの壮大なスケールが矮小化してしまった印象を抱きました。

 最後に、3部作を読み通してみての感想です。

 確かに、破格のスケールと多彩な科学的知見で圧倒的な質感をもった作品だと思いますが、正直なところ、私の好みには合いませんでした。

 大長編ですからいくつかのパートで構成しているのですが、そのためか、ひとつの大きな物語と捉えたとき、ここが最高潮という “クライマックス” がはっきりしません。
 “クライマックス” の主役は「事象」ではなく、やはり「人」であるべきだと思います。もちろん各パートごとに “主人公” は登場していますから、その意味では、主人公のプロットが私にとってあまり魅力を感じなかったということかもしれません。
 細かなところでは、それぞれのパートをつなぐのに「人工冬眠」という時間を跳躍する技(タイムトラベル)を使っているのも安直な印象を受けました。

 とはいえ、確かに型破りな発想力や構想の緻密さは素晴らしいものがありました。
 大いに話題になっている作品ですから今後「映像化」の話は出てくるんでしょうね。シナリオとしても映像としても、どう料理されて登場するのか楽しみです。



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