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科学は歴史をどう変えてきたか : その力・証拠・情熱 (M.モーズリー/J.リンチ)

(注:本稿は、2012年に初投稿したものの再録です)

 イギリスBBC製作の「科学の歴史」をテーマにしたシリーズ番組と連携して出版された本です。

 「宇宙」「物質」「生命」「エネルギー」「人体」「脳」の6つのジャンルを掲げて、古代から現代に至る歴史の流れの中での「科学」の位置づけを辿っていきます。図絵が豊富で、どのジャンルをとってみても面白いエピソードが満載です。

 たとえば、「エネルギー」の章で語られている、イギリスの産業革命期における科学の位置づけについてのくだりです。
 科学は、学術的な観点からは純粋に「理論」の世界ですが、他方、実社会に資するリアルなものとしての「技術」の側面も持っています。ジェイムズ・ワットの功績に代表される18世紀のイギリスで発展した「蒸気機関」。熱エネルギーを運動エネルギーに変換したものですが、こちらは「技術」が「理論」に先行した事例です。

(p166より引用) 目覚しい蒸気機関の活躍に対し、蒸気機関の原理などの理論的側面についての研究は大きく遅れをとっていた。例えば当時はまだ、熱は物質であるなどと考えられていたのだ。「エネルギーとは何か」などという疑問は、エネルギーで一儲けしようとしていた人たちにとっては大した問題ではなかったのだ。

 もうひとつ、私の関心を惹いたのが、「脳」の章で紹介されたフランスの哲学者ルネ・デカルトの思想と脳の役割との関係についてです。

(p245より引用) デカルトの理論では、脳は体を支配する座にあって体は脳に逆らえない。そして、潜在意識による行為は反射によるものと考えた。また、物理的な刺激は神経内の繊維を緊張または弛緩させ、それに応じて筋肉も収縮、弛緩すると考えた。

 精神と肉体とを切り離して考える心身二元論は、人間の持つ精神が肉体を司るものだと捉えることを認めました。そして、デカルトは、その精神の場を脳内にある松果体にあると考えたのです。「脳が身体をコントロールしている」、1649年に著された「情念論」の中で説かれている主張です。

 さて、本書ですが、内容はとてもユニークでした。科学が社会に与えた影響に加え、印刷や電信といった新技術や郵便・鉄道といった社会インフラが、科学の発展に大きく寄与した点についても言及されています。

 古代から現代に至る科学史をざっくりと振り返る意味でも有益ですし、歴史上の有名なエポックの中での科学の関わり、すなわちその位置づけや意味づけにも気づかせてくれるとても興味深い本でした。



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