実践 知識労働者
ドラッカー氏のマネジメントの主体は「知識労働者」です。
このドラッカー氏がいう「知識」とはどういうコンセプトなのか、本書からその点に触れられている箇所を1・2書き出してみます。いずれも氏の著作からの引用部分です。
「知識」は「成果」をあげるために必要不可欠なものです。ドラッカー氏は「知識」を「成果」に結びつけるための具体的方法も示しています。
知識労働者の行動の質は外からは見えにくいものです。
結果で管理すると割り切ってしまえば簡単ですが、やはりプロセス管理の要素も必要でしょう。外に現出しない知識労働者のプロセスを管理しようとすると、知識労働者自身による管理・評価の比重が高まってきます。
ドラッカー氏は、知識労働者のセルフマネジメントは「must-can-will」の関係性をチェックすることによりなされるべきだと考えています。
まず、「must=なされるべきこと」に取組んでいるか、次に「can=できること」を実行しているか、そして最後が「will=やりたいこと」ができているかという優先順位を確認するのです。そして、こうも語ります。
こういった「must-can-will」関係性に着眼したスキームは、自己責任における「セルフマネジメント」を実施していくうえでの重要なフレームワークであると同時に、「HRM(ヒューマンリソースマネジメント)」の観点からは、組織人の成長を促す方法論の具体的なヒントにもなります。
すなわち、mustとcanとwillとを微妙にずらせることにより、当人の新たな能力を開発したり、組織の総合力を高めたりすることができるのです。
成長のために
本書は、「知識労働者」として成果をあげるための「セルフマネジメント」にフォーカスした「ドラッカーガイドブック」という体裁です。
第2章では、「成長のため」の具体的な方法をいくつか紹介しています。
そのひとつが「予期せぬ成功」への着目です。
「予期せぬ『失敗』」の方は、「失敗」であるだけに通常でもその原因追求はなされるでしょう。ドラッカー氏の慧眼は、『成功』についてもその原因を追求せよと指摘しているところです。それは、潜在化していた「自分の強み」を顕在化させ、さらにそれを強化しようという前進的な姿勢の表れともいえます。
こういったドラッカー氏の前向きの姿勢は、氏の思想の随所に現れています。
たとえば、「貢献と自由」について語るくだりです。
ドラッカー氏は、組織として成果をあげるための基本姿勢として「貢献」を重視します。貢献の形はいろいろ考えられます。まさにどういう形をとろうと「自由」です。ドラッカー氏はこの「自由」に関してこう語っています。
自由とは「選択の自由」がある状態だというのです。
自らが自らの意思で選択できる、何と前向きの姿勢でしょう。そして、その選択の結果には自らの責任が伴う、何と真摯な姿でしょう。
私は、ドラッカー氏の卓越性はこの「真摯さ」あると考えています。
自分に厳しく、妥協せず、完全を求め続ける見事な姿勢です。
実践シート
監修者上田惇生氏によると、本書は、ドラッカー氏の著作のエッセンスをまとめた「プロフェッショナルの条件」を主たる底本としているとのこと。ドラッカー氏の思考のさわりに触れるための超シンプルなガイドブックといえます。
とはいえ、本書を読んで改めて気づかされた点もありました。それらを2・3、記しておきます。
まずは、組織における「コミュニケーション」について。
コミュニケーションの基本は「聞くこと」だという点は、多くの先人の指摘するところです。しかし、ドラッカー氏の「聞く対象・内容」はユニークです。
部下に対して「どんな貢献ができるのか」を聞くというのです。
貢献するための行為は、外から捉えられるものではなく、部下自身の中にある、したがって、それを「問う」ことにより明らかにし、成果に結び付ける具体的行動に導いていくのだとの考え方です。
二つ目は、成果をあげるための「資源の有効活用」の要諦について。
「集中とは他の可能性を捨てる勇気だ」との指摘は蓋し箴言ですね。また、「任せることにより自己の卓越性を磨く」との教えも心したいものです。
そして、三つ目は、「優先順位の原則」。
「未来」「機会」「独自性」「変革」。選択すべき行動の基準としては、極めて明確で示唆に富むものです。
さて、本書は、タイトルに「実践」とあるように、実際にドラッカーの思想を行動に移すための整理ツールを用意しています。20の「実践シート」です。
最後に、それらを覚えとして書き留めておきます。
こうやってチェックリストとして書き並べてしまうと、ドラッカー氏の思想の重厚さとは異質なものような気もしてきます・・・。