采配 (落合 博満)
現役時代の落合博満氏は、それは素晴らしい打撃技術をもった選手でした。厳しい内角の球でもファールにせずレフトスタンドへ、右方向のホームランはまさにバットに球を乗せて運ぶ感じ・・・、素人目にも図抜けていましたね。
選手として前人未到の輝かしい実績を残した落合氏は、監督となってからも好成績を上げ続けました。
本書は、その落合氏が、現役・監督時代を通した野球人生活における自らの経験・信念を書き綴ったものです。
興味深いエピソードは数々ありますが、そのなかからいくつか覚えに書きとめておきます。
本書のタイトルは「采配」。落合氏の采配においての信念は「その場面で最善と思える決断をした」というものでした。
このフレーズは大切な点を指摘しています。
落合氏が考える「最善の手」は、その瞬間だけを意識したものではなく、その先も見通したうえでの判断だというのです。「なぜ、あそこで選手交代させたのか」・・・、落合采配に首をかしげる人とは、この「判断対象スパン」が異なるのです。
もうひとつ、落合氏は、「選手」ひとりひとりを “プロフェッショナルとしての生活者” として尊重していました。
「企業は人なり」とはよく聞く言葉ですが、この言葉もよくよく吟味しなくてはなりません。そう語る人は、いったいどこまでの覚悟をもって発しているのか。
落合氏の価値観は、「球団の利益<選手の生活」ですが、世の企業においてもそうなっているでしょうか。「人財」と言いつつ、人を「経営資源」(ヒューマンリソース)と考えているのであれば、その根底の思想は「会社の利益>社員の生活」ということでしょう。
本書で開陳された落合氏の基本的な考え方・思考スタイルは、私としては、多くの点で首肯できるものでした。
その納得感以上に、周囲に阿ることなく自らの信念を行動で表し、さらには有言実行でしっかりと実績に結び付けたという点で、落合氏の在り様は素直に素晴らしいと思いました。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?