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采配 (落合 博満)

 現役時代の落合博満氏は、それは素晴らしい打撃技術をもった選手でした。厳しい内角の球でもファールにせずレフトスタンドへ、右方向のホームランはまさにバットに球を乗せて運ぶ感じ・・・、素人目にも図抜けていましたね。
 選手として前人未到の輝かしい実績を残した落合氏は、監督となってからも好成績を上げ続けました。

 本書は、その落合氏が、現役・監督時代を通した野球人生活における自らの経験・信念を書き綴ったものです。
 興味深いエピソードは数々ありますが、そのなかからいくつか覚えに書きとめておきます。

 本書のタイトルは「采配」。落合氏の采配においての信念は「その場面で最善と思える決断をした」というものでした。

(p88より引用) 「今一番大事なことは何か」という点だけは見誤ることなく、そこには最善の手を打たなければならないだろう。プロ野球のシーズン、選手たちの活躍、「長いスパンで野球を楽しめるかどうか」を考えた上での「今」なのだ。

 このフレーズは大切な点を指摘しています。
 落合氏が考える「最善の手」は、その瞬間だけを意識したものではなく、その先も見通したうえでの判断だというのです。「なぜ、あそこで選手交代させたのか」・・・、落合采配に首をかしげる人とは、この「判断対象スパン」が異なるのです。

 もうひとつ、落合氏は、「選手」ひとりひとりを “プロフェッショナルとしての生活者” として尊重していました。

(p190より引用) 球団の財産は選手だ。ならば、どんなことをしてでも選手を守らなければいけない。企業経営者と話をしても、常に考えているのは「どうやって利益を上げようか」ではなく、「いかに社員とその家族の生活を守っていくか」である。

 「企業は人なり」とはよく聞く言葉ですが、この言葉もよくよく吟味しなくてはなりません。そう語る人は、いったいどこまでの覚悟をもって発しているのか。
 落合氏の価値観は、「球団の利益<選手の生活」ですが、世の企業においてもそうなっているでしょうか。「人財」と言いつつ、人を「経営資源」(ヒューマンリソース)と考えているのであれば、その根底の思想は「会社の利益>社員の生活」ということでしょう。

 本書で開陳された落合氏の基本的な考え方・思考スタイルは、私としては、多くの点で首肯できるものでした。
 その納得感以上に、周囲に阿ることなく自らの信念を行動で表し、さらには有言実行でしっかりと実績に結び付けたという点で、落合氏の在り様は素直に素晴らしいと思いました。



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