見出し画像

なぞとき 深海1万メートル 暗黒の「超深海」で起こっていること (蒲生 俊敬・窪川 かおる)

(注:本稿は、2021年に初投稿したものの再録です。)

 いつも利用している図書館の新着書の棚で目についた本です。
 たまにはこういった普段手にしないようなテーマの著作にトライするのもいいでしょう。

 予想どおり、知らないことのオンパレードでした。
 そのいくつかを覚えに書き留めておきます。

 まずは、「深海の水(深層水)の大循環」について。
 海洋の水は、その温度や塩分濃度の差によって上下に移動し、その結果、地球上の海洋には大規模な攪拌(循環)が生じています。

(p111より引用) 熱塩循環が約2000年かけて全世界を一巡しているおかげで、深層や底層には表面水由来の酸素が補給される。これは、窓を開けて部屋の中に新鮮な空気を取り入れる「換気」にたとえられよう。つまり、深海や超深海の生命活動を維持するのに不可欠な換気作用を担う重要なプロセスが、熱塩循環というわけである。
 また、熱塩循環が気候の調節に果たす役割も見落とすことはできない。熱容量の大きな(大量に熱を運ぶことのできる)水が循環することによって、熱が効果的に分散され、暑すぎたり寒すぎたりしないマイルドな気候条件の維持に寄与していると考えられるからである。

 地球環境を維持している壮大な自然のサイクルですね。

 もうひとつ、「海底温泉と生命の起源」について。

(p145より引用) 海底温泉からは、生命有機体を合成したり、合成反応の触媒となりうるさまざまな化学物質が噴き出している。熱エネルギーがある。環境条件も、高温から低温までいろいろある。電気化学反応も関与しうる。条件がうまく重なれば、最初の生命につながるのではないか。

 原始地球における生命は「海」で誕生したと言われていますが、その具体的な「場」の候補が「海底温泉」だという説です。これは、素人目にも十分あり得そうな仮説だと思います。

 その他にも、「深海の生物」
 特に超深海に生息している魚類、現在マリアナ海溝の水深8178mにおいて映像に捉えられているようですが、高圧・暗黒という極限の環境下におけるその生態は大いに気になります。

 そして、最後は「超深海の環境汚染」について。

(p237より引用) つい数年前の2017年、超深海の底生生物がPOPsによってすでに汚染されていることが、初めて明らかになった。
 発見したのは、・・・英国のジェイミソンらの研究グループである

(p238より引用) ジェイミソンらは、前記の2海溝(投稿者注:マリアナ海溝とケルマディック海溝)を含む太平洋の6海溝の海底(深さ7000~1万890メートル)から同種のヨコエビ90個体を採取してくわしく調べた。予想に違わず、65個体の消化管の中から、マイクロプラスチックを含む人工物質が出てきた。ヨコエビの多くが、海底に降下したマイクロプラスチックを摂食し、その結果POPsを体内に蓄積してしまったということなのだろう。

 ちなみにPOPs(Persistent Organic Pollutants)とは、残留性有機汚染物質の略です。

 ここで語られているように、地球環境の棄損は、陸上・大気に加えて海洋でも深刻な状況に至っています。そして、何より “未だ改善の方向に転換していない”という現実を前に、自分たちにもできることを今すぐにでも取り掛かりたいとの思いです。

 “具体的にどんなアクションが効果的なのか”、場当たり的なパフォーマンスではない専門家による科学的根拠に基づいた的確なサジェスチョンが、正に今求められています。



この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?