見出し画像

マンモスを再生せよ ハーバード大学遺伝子研究チームの挑戦 (ベン・メズリック)

(注:本稿は、2020年に初投稿したものの再録です。)

 以前、「合成生物学の衝撃」という本を読んだのですが、その流れで手に取ってみました。

 ケナガマンモスを再生しようという俄かには信じ難いプロジェクトの話です。

 最先端の遺伝子学がテーマですが、専門的な解説書ではなくノンフィクション物語の体裁です。なので、学術的な内容を期待していた読者の方は少々拍子抜けするかもしれません。私も「遺伝子編集技術」のあたりは、先に類似の書物(合成生物学の衝撃)を読んでいたこともあって、ある程度行間を埋めることができたかなという次第です。

 本書で紹介されている数々のエピソードはどれもとても興味深いものですが、特に私が気になったくだりを書き留めておきます。
 遺伝子学と倫理に関わる「科学者の姿勢」に言及した部分です。

 まず、遺伝子学の特殊性をこう紹介しています。

(p249より引用) 遺伝子ドライブ(特定の遺伝形質が、親からすべての子に受け継がれるようにする技術)は物議をかもす研究である。受け継がれる遺伝子を変更することは、種そのものを変えることを意味する。そして、遺伝子ドライブを使えば、一つの種をいとも簡単に終わらせることができる。・・・ かくも強力な科学的ツールの使用が倫理に反しないかどうかはいまだに懸案事項である。実際、アメリカの情報機関幹部は最近、CRISPRと遺伝子ドライブが大量破壊兵器となる可能性を考慮するべきという結論を下し、科学界は騒然とした。ある生物種の遺伝子を改変すれば、ほとんど時を置かずにその種全体を根絶やしにできるのだ。

 そこで、こういった研究に携わる科学者の倫理観が極めて重要な課題として取り上げられます。

(p248より引用) 一般市民の中に飛びこみ、いずれ全人類に影響が及ぶ新しい科学を人々に伝える活動は、ティンが進めている科学研究と同程度に重要なものとなっていた。チャーチがかねがね言ってきたように、科学は世間と隔絶した場所で行なわれるのではない。科学者は自分の研究を世間に公開し、人々に知らせる責任がある。

 科学者自身による倫理判断にのみ頼るのではなく、状況を公表することにより「社会的検証の機会」を整えておこうというとても重要な姿勢です。

 すでに現在の先端科学の水準は「生命を創造する」ことをも可能にしつつあります。こういった監視機能を幾重にも備えておかないと、その合成生物学のもたらす予期せぬ弊害を予見し回避することが困難な段階に達しているのです。

 ちなみに、2020年のノーベル化学賞は、ゲノム編集技術のCRISPR/Casを開発したドイツMax Planck Institute for Infection Biology の Emmanuelle Charpentier所長と米California大学Berkeley校の Jennifer Doudna教授が受賞しました。



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?