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世界がわかる理系の名著 (鎌田 浩毅)

 タイトルやその中に書かれている業績は知っていても、なかなかその原典を読む機会はありません。

 本書は、ファーブル『昆虫記』、ガリレオ『星界の報告』、ニュートン『プリンキピア』、アインシュタイン『相対性理論』・・・等々、科学史において顕著な業績を残した科学者の代表的な著作を取り上げ、その内容のポイントやエピソード等を分りやすく紹介したものです。

 たとえば、ファーブルの著作のオリジナリティについてです。

(p28より引用) ファーブルには出版にあたり別の野心があった。多くの啓発書では、書かれた内容の出典はよそにある。もし詳細に調べてみれば、原典がどこかにあり、それを平易に書き直したものであることがわかる。しかしながら『昆虫記』の中身は実はファーブル自身が新たに発見したことであり、どこにも類書はない。
 彼が目指したのは、オリジナルでありながら万人に広く読まれるという新しいタイプの本だった。

 本書で紹介されている科学者の多くは、当時権威のあった通説や社会の常識を打ち破る全く新たな「視座」や「視点」を提示しました。

 「生物から見た世界」を著したエストニア出身の生物学者ユクスキュルの鮮やかな「視座の転換」です。

(p74より引用) 一般に、環境とは客観的にわれわれ生き物を取り囲む状態のすべてである。・・・
 しかし、ユクスキュルはまったく異なる視座を持っていた。客観的な視点から環境をとらえるのではなく、生物が自分を中心として意味を与えたものが本来の環境であると考えたのだ。
 動物たちはみな、それぞれが独自の環境を持っている。動物を取り巻く時間や空間は、物理学が説明するように一意的に決定されたものではなく、動物によってすべて違う、と言うのである。

 環境は絶対的な与件ではなく、対象により相対的なものだという考え方です。

(p75より引用) これは私たち人間にも同じことが言える。私たちが「環境問題」という時は、人間にとって都合の良い世界が周囲にあるかどうかを問題にしているわけだ。すなわち、「良い環境を築く」とは、実は「人間にとって良い環世界を築く」という意味で用いられているのである。

 通説や常識を打ち破るという点では、ガリレオ・ガリレイが代表的ですが、アルフレッド・ウェゲナーが「大陸と海洋の起源」で唱えた「大陸移動説」も当時は驚天動地の説でした。大西洋の両側の海岸線が似ているとの気づきはおそらく多くの人が感じていたはずです。ウェゲナーの卓越したところは、その理論化への執着でした。

(p228より引用) 思いつきだけではサイエンスは成功しない。思いつきをサイエンスにするための大切な仮説と実証、この過程をウェゲナーはきちんと踏んだ。人々を納得させる理論を提出し、あらゆる角度から事実で検証したのである。

 しかし、当時得られた事実だけでは、ウェゲナーの仮説は十分に立証できませんでした。そのときのウェゲナーのとった思考方法は非常に参考になります。

(p229より引用) 確定できない部分はさておき、入手できた事実から話を組み立ててしまう戦略がここにはある。たとえて言うならば「棚上げ法」だ。この方法を使ったものだけが、パイオニアの成功を勝ち得ることができるのである。

 本書で紹介されている科学者は皆、当然ですが「超一流」です。
 一流の人ほど、謙虚であり、地道な努力を厭いません。
 あのニュートンですら、こう語っています。

(p141より引用) 「世間が私のことをどう見ているか知らないが、自分は波打ち際で遊ぶ一人の子どもに過ぎない。真理という大きな海は、いまだ発見されないまま目の前に果てしなく広がっている。それなのに私は、ときどき美しい貝殻や小石を見つけては、無邪気に喜んでいる
 ニュートンの自然観がよく表現されたものであり、私たち自然科学者にとって、この言葉は、研究の現場でいつも味わう感慨でもある。

 また、斉一説を唱え「地質学原理」を著したスコットランド出身の地質学者チャールズ・ライエルの研究姿勢も、まさに王道です。

(p208より引用) ライエルは、第一に非常に優れた自然現象の観察者だった。しかも、くわしく観察しながらも単純な記載に留まることなく、ここから一般法則を立てることに熱心であった。観察と理論化という科学者としての基本的な資質に恵まれた研究者だったのである。

 本書で紹介されている本の中で、私が読んだことがあったのは、アインシュタインの「相対性理論」だけでした。(全く恥ずかしい限りです・・・)
 とても面白そうな本がたくさん紹介されているので、よい読書案内を見つけた気がします。



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