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桃太郎はニートだった! 日本昔話は人生の大ヒント (石井 正己)

玉手箱の意味

 「桃太郎」「一寸法師」「猿蟹合戦」「かちかち山」「花咲か爺」「瘤取り爺」「舌切り雀」「浦島太郎」「鶴女房」の9つの昔話をとり上げて、その成り立ち、歴史的・社会的背景、ストーリーの含意などを解説したものです。

 たとえば、こんな薀蓄も・・・、桃太郎の「桃」はいったいどこから流れてきたのか?
 かの芥川龍之介は、短編「桃太郎」のなかでこのように描いています。

(p23より引用) 昔々、山の奥深くに大きな桃の木が一本生えていました。・・・
 この木は、1万年に一度花を開き、1万年に一度実をつけましたが、大きな実には美しい赤児を一人ずつはらんでいました。
 ある日、八咫鴉が桃の実を一個ついばみ、谷川へ落としてしまいました。

 また、「浦島太郎」の玉手箱の意味について。
 どうして乙姫は浦島太郎に、開けると年をとってしまう玉手箱を渡したのでしょうか?
 一般に知られている浦島太郎の物語は、太郎が玉手箱を開けてお爺さんになってエンディングですが、室町時代の御伽草子の流れをくむ江戸時代の「渋川版」浦島太郎では、その後、太郎は鶴となって亀(竜宮城で太郎と結婚した女性)と夫婦明神として祭られるという話になっているそうです。

(p158より引用) 人間だった浦島太郎は鶴に転生し、本当の意味で亀と結ばれたことになるわけです。そう考えると、なぜ女性が浦島太郎に箱を渡したのかがわかるような気がします。

 玉手箱は、太郎と乙姫が竜宮で別れた後の「再会」を約するためのものだったのです。

「昔話」と「民話」

 「一寸法師」をはじめとして多くの「昔話」は、明治から大正期に活躍した児童文学者巌谷小波によって、子供向けに書き改められました。
 また、いくつかの話は、小学校の教科書にも載せられ定番化してゆきました。オリジナルの話の角が取れ、ストーリー自体も、ある種当時の社会状況を反映した教育的?内容に変質していったのです。
 さらに、絵本の流行も、内容の希釈化・穏健化にドライブをかけました。

 そういう動きを踏まえた著者の辛辣なコメントです。

(p142より引用) 昔話の本質は、やはり「悪いものは悪い」ときっぱりいい切るところにあります。・・・近代の昔話絵本はそうした論理をゆるがせにしてきたところがあります。そのようにした前提には、近代社会の作り上げた偽善性がはびこっているはずです。

 著者は、「昔話」と「民話」というそれぞれの言葉に込められた思想の違いを、柳田国男と木下順二の考え方を例に解説しています。

 民俗学的立場からの柳田国男氏の考えはこうです。

(p179より引用) 彼(柳田)にとって昔話は、あくまで民俗学の対象であり、日本人の歴史や信仰を知るための重要な資料でした。ところが、「民話」はそうではありません。

 他方、「夕鶴」等の代表作をもつ劇作家木下順二氏はこう考えていました。

(p180より引用) 木下は、民話から「民話劇」を創作しましたし、民話は現代でも生まれるものだと考えていました。そうした考えは「昔話」から日本人の歴史や信仰を分析しようとした柳田の意図とは、まったく相容れないものだったのです。

 「日本人のもとのかたちのもの」を究めるという柳田氏の学問的目的からすると、「再話」「再創造」による昔話の民話への変容は、その阻害行為だったということです。


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