(注:本稿は、2014年に初投稿したものの再録です)
毎週行っている図書館の「リサイクル図書」のコーナーを覗いた時、目についたので手に取ってみた本です。
著者の吉野源三郎氏は、雑誌「世界」の初代編集長で、名著「君たちはどう生きるか」の著者として有名ですね。
本書のタイトルは「同時代のこと」。巻頭の「序にかえて」の章が圧巻です。
その章では、同時進行している「現代史の捕捉・評価」に関するジョン・リードの「世界をゆるがした十日間」という著作を示しつつ、とても内容の濃い主張が綴られています。
この吉野氏の問題意識とその立ち位置の誕生は、吉野氏の青年期の忸怩たる思いに発しています。
その思いをもって、まだ、研究の対象として熟成されていない「眼前の現代史」を捉えるにあたって、著者は「主体」の重要性を指摘しています。
現に直面している現実を捉えることは、それが、同じ瞬間に存在するがゆえに、そこに立つ「主体」の姿勢がクリティカルになるのです。
序に続く本編は、同時代の歴史的事象としての「ヴェトナム戦争」を材料にした吉野氏の講演や寄稿文等を採録したものです。
当時の吉野氏の強烈な信念に裏打ちされたエネルギッシュな姿が眼前に広がるようです。
まずは、吉野氏の現代史認識における「ヴェトナム戦争」の“意味づけ”はこうです。
このくだりに続いて、吉野氏の官僚および官僚出身の政治家批判が展開されます。
見識と洞察をこれほど必要としている時機に、「もともと、そのようなものを欠いていればこそ有能であった人々」が日本の舵取りを行っていることへの強い危機感の表明です。
そして、最後に、本書の中で最も印象に残ったフレーズを書きとめておきます。
1930年代、ヒトラーがオーストリア・チェコ等に続きフランスをも屈服させてほぼ全ヨーロッパに覇を唱えたとき、三木清が語ったと紹介された言葉です。
同時進行の時間軸の中に居ながら、歴史的・社会的・思想的全体観を意識したこういう言葉を発することができる感覚は素晴らしいと思います。