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理不尽に勝つ (平尾 誠二)

(注:本稿は、2012年に初投稿したものの再録です)

 以前、会社の講演会で平尾誠二さんのお話を聴いたことがあります。本書は、平尾氏の実体験に根差した自己マネジメント啓発本です。

 「世の中は、思い通りになることの方が圧倒的に珍しい。ならば、その環境をどう乗り越えていくか。」
 理論派を自負する平尾氏ですが、高校・大学時代は典型的な体育会系世界を経験してきました。そこで体得した理不尽の効用について、こう語っています。

(p33より引用) 同じ言葉であっても、人から言われたり本で読んだりして、知識として知っているのと、自分自身で体得するのとでは、まったく違う。こうした哲学は、理不尽に思える経験をしなければ、なかなか血肉化することはできないものではないかと思う。

 本書では、この「理不尽」を積極的に活かす平尾氏なりの方法が語られています。
 そのうちののひとつが、「なんとかなるさ」という楽観思考です。

(p75より引用) 入念に準備し過ぎると、かえって視野が狭くなり、判断の精度が低くなってしまうからだ。だから、「たとえ予定していたプレーができなくても、なんとかなるさ」というくらいの気持ちでいることが大切なのだ。

 現役時代の平尾氏のプレースタイルが、いかにも柔軟・軽快に見えていた所以ですね。
 この「なんとかなるさ」は「破れかぶれ」とは異なります。「なんとかなるさ」は、最悪の究極まで行き着かない最後の余裕が残された心の持ち様です。

 ただ、この「なんとかなるさ」の背景には、「無理をして何とかなったという経験」が不可欠です。そうでなければ、「なんとかなるさ」は単なる根拠のない安易な楽観に過ぎなくなります。
 理不尽の体験は、ひとつの「無理をして何とかなったという経験」として、前向きの楽観思想の糧となるのです。

 さて、本書を読んでですが、正直なところ、ちょっと説くところが表層的な印象を受けてしまいました。

(p216より引用) 理不尽さを取り除こうとするのは、かえってマイナス面のほうが多いと私は思っている。今の若者が弱くなってしまったのは、理不尽を排除してしまったこと、なくなってしまったことが、その原因の根本にあるのではないかと考えている。

 本書で語られていることは、確かに平尾氏の実体験に根差した主張で、その根拠となるエピソードも豊富に紹介されています。
 ただ、以前に直接聴いた平尾氏の「講演」で伝わってきたような想いの厚みは、本書の文字面からはあまり感じられませんでした。(ライターの技量によるのかもしれませんが・・・)ちょっと残念です。

 もし、平尾氏の著作を手に取るのであれば、経営学者金井壽宏神戸大学教授との共著「型破りのコーチング」の方をお勧めします。



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