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昆虫はすごい (丸山 宗利)

(注:本稿は、2014年に初投稿したものの再録です)

 新聞の書評欄でみて気になった本です。

 地球上の生物種の大多数を占めるのが「昆虫」なのだそうですね。

(p15より引用) ある熱帯地域の調査では、アリだけの生物量(バイオマス=そこに住んでいる全個体を集めた重さ)で、陸上の全脊椎動物・・・の生物量をはるかに凌駕することがわかっている。

 著者の丸山宗利氏は、昆虫の多様性の研究では第一人者とのこと、本書において、驚くべき昆虫の不思議をこれでもかと紹介してくれています。

 たとえば、私が最も不思議に思っている“擬態”のプロセスについてですが、著者の見解はこうです。

(p55より引用) ヒト以外の生物も模倣する。・・・しかし、ヒトが「これをまねよう」と思って何かをまねるように、個体が何かを見て変化をするということはない。
 そう思ったに違いないと信じてしまうくらいに、よくできていることもあるが、ヒトのまねと異なるのは、それが生物個体の意思によるものではなく、突然変異と自然選択の膨大な積み重ねによる進化の結果という点である。

 つまり、偶然がトリガーで選択により生存確率が高まる方向に収斂していった結果だというのです。気が遠くなるような遠大な道程ですね。

 さて、本書を一貫している著者の主張のエッセンス、すなわち

私たち人間がやっている行動や、築いてきた社会・文明によって生じた物事は、ほとんど昆虫が先にやっている。狩猟採集、農業、牧畜、建築、そして 戦争から奴隷制、共生まで、彼らはあらゆることを先取りしてきた。」

という指摘はとても興味深いものです。
 そして、それは、本書で紹介されている昆虫たちの姿を見れば確かにと大いに首肯できるところでもあります。

 たとえば「農業する」との項での「ハキリアリ」の生態
 ハキリアリは、木の葉を切り取り巣に持ち帰って、そこに「菌」を植え付けます。ただ、その菌園は放っておくと雑菌が増えて壊滅状態になります。そこでハキリアリは、なんと ”農薬” を使うのです。

(p146より引用) ハキリアリの胸部には特別な共生バクテリアが付着しており、それが余計な微生物の成長を抑える抗生物質を分泌している。その抗生物質は共生圏には影響を与えないので、効率的に栽培を行うことができる。

 この方法は、・・・悪いたとえだが、ごく最近開発された悪名高き農法、雑草を枯らす除草剤をばらまき、そこに除草剤に耐性のある遺伝子組み換え作物を栽培する最新鋭の農法と原理的に非常に似通っている。

 もうひとつインパクトがあったのは、昆虫の世界での ”奴隷制” の存在です。ここで「奴隷を使う」というのは ”寄生” の一形態でもあります。

(p171より引用) 寄生という言葉を聞くと、・・・他者の体に棲みつくものを想像するが、それだけではない。寄生というのは、複数(通常は二つ)の生物の共生関係において、利益が片方に偏る場合をいう。・・・
 生物が自分の労力をいかに抑えて利益を得るかと考えたとき、もっとも合理的な方法は寄生である。寄生性が非常に多くの生物で独立に進化し、そのような生物が今日まで生き延びていることを考えると、寄生という生活様式がいかに適応的な選択肢であるかがわかる。

 幼虫や蛹を略奪して奴隷とするケースもあれば、宿主の巣に乗り込んで乗っ取るケースもあります。ただ、乗っ取りに失敗して返り討ちにあう場合も少なくないようで、やはり双方の生存を賭けた厳しい世界ではありますね。

 最後に、本書の中で最も驚いたこと。
 著者が支持する分類法によると「カマキリ」は「網翅目」に分類され、ゴキブリやシロアリなどと同類とされていることでした。だいぶイメージは違いますよね。


〔ハキリアリの生態動画〕



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