紛争地のポートレート 「国境なき医師団」看護師が出会った人々 (白川 優子)
(注:本稿は、2022年に初投稿したものの再録です。)
いつも聴いているピーター・バラカンさんのpodcast番組に著者の白川優子さんがゲスト出演していて、本書の紹介をしていました。
白川さんは現在「国境なき医師団(MSF)」日本事務局に採用担当として勤めていますが、18回の派遣経験を持つ看護師です。
以前、白川さんが著した「紛争地の看護師」を読んだのですが、そこで紹介されている紛争地の実態に大いに驚き感銘を受けました。
本書でも紛争現場の様々な立場の人々の素顔がリアルに描かれています。また、そういった現地の様子に直面した白川さんの心に去来する心情にも、大いに考えさせられるものがありました。
まずは、白川さん自身が痛感した紛争現地での理不尽さへの慙愧の念。
IS(イスラム国)に支配されたシリア・ラッカから地雷原を走破して脱出を図る住民たち、その医療支援の現場での思いです。
このISによる占領が終わったあとにも、住民たちの生きるための苦難はまだまだ継続します。しかし、その実態を世界の人々が知る機会はほとんどないのです。
メディアは劇的なシーンの映像を伝達するのが使命ではないはずです。改めて、“報道の本旨” “ジャーナリストの意思” が問われる指摘だと思います。
もうひとつ、白川さんのイエメンでの経験。
6ヵ月空けて再び派遣されたイエメンは一気に社会情勢が悪化していました。現場スタッフの生活も苦しくなっています。奪われたものは財産だけではありません。
そして、最後に、本書を読んで最も印象に残ったくだり。
「あとがき」に書かれていたアフガニスタンに派遣された時の白川さんが目にした当地の人々の様子です。
国際社会による制裁措置はタリバンにのみピンポイントに機能させることはできません。その効果は、アフガニスタンという国全体の経済活動や社会生活を抑圧してしまうのです。
現地の人々にとっては、生活を破壊するという点では、タリバンによる戦闘活動も国際社会による制裁も、どちらも同じく身に迫る危機そのものなのです。
白川さんの著作には、自らを美化するような記述は一言もありません。派遣された現地の様子を、それに接する自らの行動を、そしてそこで感じ考えた素直な想いを誠実な筆致で著していきます。
ともかく、白川さんをはじめとして「国境なき医師団(MSF)」のみなさんの献身的な活動には本当に頭が下がります。
白川さんの言葉が、世界の今を語り尽くしています。
元凶は同じ “人” なのに、なぜ・・・、との想いです。
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