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ウェブ時代をゆく ‐ いかに働き、いかに学ぶか (梅田 望夫)

 梅田望夫氏の著作は、「ウェブ進化論」「ウェブ人間論」「フューチャリスト宣言」に続いて4冊目になります。

 例のごとくグーグルが登場します。
 最近の動きのアップデートとして、グーグルの持つふたつの顔についてのコメントです。

(p45より引用) 「世界中の情報を整理し尽くす」という「存在意義」と表裏一体となった「広告業界の覇権獲得」という「一つ目の顔」がメディア産業を脅かすのに対して、「コンピュータ産業を作り直す」という「二つ目の顔」が競争を仕掛けるのはマイクロソフトが制しているIT産業の覇権であり、ひいてはIT産業全体の構造を脅かすのである。

 梅田氏は、グーグルで実際行われ、また氏自身も経験したネットベースの「ダイナミックな知の創造プロセス」を紹介しています。それは、「情報をひろくネット上に置き、その反応(付加価値)により知を増殖させる」というサイクルです。
 このサイクルを回すためには、「三つの発想の転換」が必要だと言います。

(p162より引用) 一つ目は「ネット上の不特定多数を信頼する」気持ちを持つことである。・・・
 二つ目は「閉から開へのマインドセットの転換」である。・・・
 そして三つ目は「希少性をコントロールする概念からの脱却」である。

 三つ目の視点は面白いですね。

 ただ、本書はこの手の話題がメインテーマではありません。
 本書で特に強く語られているのは、今のネット時代に生きる若者に対する梅田氏からの熱き想いです。それは「好きを貫け」というメッセージです。

(p79より引用) チープ革命、受益者非負担型インフラ、無償サービス、情報の共有・・・。ウェブ進化のキーワードを並べてみればまさに、「貨幣経済の外側で活動する能力」がパワーアップされて、広く誰にも開かれていく未来が見えてくる。お金をあまりかけずとも、「内面的な報酬」を求めて、能動的で創造的な行為における「好き」を貫く自由が広がるのだ。

 梅田氏自身も「好き」なことを探し、見つけ、それを実践し続けました。

(p143より引用) 私が何とか「けものみち」でサバイバルしてきたことについて、私自身が振り返って頭に浮かぶ要因は、「好きなことをやり続けたいという執念によってドライブされた勤勉」以外には思いつかない。こつこつと丁寧に細かなことを積み上げながら毎日を送ってきたことに尽きる。

 梅田氏のメッセージは、今の若者へのオプティミズムに基づく応援歌ではありますが、そのオプティミズムは「無責任」「無節操」を許すものではありません。
 梅田氏は、地道な「継続した勤勉さ」を求めています。「好き」を貫くのは、多きに流されるよりもはるかに厳しい覚悟が必要なのです。

 さて、最後に、梅田氏による「ネット世界のビジネスの意味づけ」をご紹介します。

(p221より引用) 誰もがベンチャーの創業や経営を目指す必要などまったくない。ただ、人生の一時期に思い切り働き、成功したらある時期以降は時間的自由を得たいと考える人にとっては、こうした特別な環境が社会の選択肢として存在することで人生の自由度が高まる。また社会全体としてみても、リスクの高い新規事業創造を多産多死の速いスピードでまわす厳しい環境を特別ルールのもとで用意したほうが、イノベーションや雇用が生まれる可能性が高くなる。

 積極的な意味で、ネットベンチャーが育つ素地が現代社会には必要だとの認識です。それは「ハイリスク・ハイリターン」であり、かつ「何度で挑戦可能」な世界です。

(p222より引用) ベンチャーとは「緊張感溢れる仕事環境に身を置くことで、個が成長できる場」と位置づけるのがいい。

 しかしながら、「個の成長」はベンチャーの専売特許ではないはずです。
 環境はもちろん大きな要因ですが、梅田氏の言う「好きなことへの勤勉さ」は個人の気持ちの持ちようです。どのような環境・境遇においても、程度の差こそあれ、真摯な勤勉さは個人の成長を間違いなく促すのです。


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