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日本企業にいま大切なこと (野中郁次郎・遠藤功)

(注:本稿は、2012年に初投稿したものの再録です)

 以前参加していたセミナーの事務局からお送りいただいた本です。
 「知識創造理論」の提唱者野中郁次郎氏と「見える化」による企業の改善活動の推進者遠藤功氏による共著です。内容は、東日本大震災で大きなダメージを受けた日本企業に対する、著者たちからの再生に向けたエールでもあります。

 本書における野中氏の主張を通底しているコンセプトは、件の「フロネシス(賢慮)」。アリストテレスの思想に遡る「共通善」を価値基準とした「実践知」です。その基本コンセプトを踏まえて、遠藤氏は、得意の現場目線での自説を展開しています。

 たとえば、「東日本大震災を経た日本企業に必要なもの」について。
 遠藤氏は、それは自社利益だけでなく社会全体の復興を目指す強い意欲だと主張しています。そして、改めて「稼ぐ」ことが、この社会全体の復興という「共通善」実現の源となると説いています。

(p57より引用) 震災で傷ついた国の復興のためにも、企業自身が「緩慢な衰退」から脱却するためにも、私たちはもう一度「エコノミック・アニマル」に戻らなければいけない。

 この「エコノミック・アニマル」への回帰は、「理論」より「現場」を重視した日本的経営手法の再評価でもあります。

 まさに今、見直されるべき日本的経営手法のひとつは、「イノベーション」を生み出すスタイルです。このあたりは野中氏の得意分野、こんなふうに語っています。

(p81より引用) 「創造とは一回性のなかに普遍を見ることだ」という言葉もあります。取るに足らない日常風景や他者とのやりとりのなかに潜んでいる小さな「コト」から、大きな変化の可能性に気づけるかどうか、イノベーションにはそれが重要であり、その気づきはふだんの連続性のなかからしか得られないのです。

 イノベーションは、形式知にもとづく論理的な演繹法からは生まれない、経験から得た深く多彩な暗黙知とその関係性を洞察した帰納法から生まれるのだというのが、野中氏の主張です。

 この日本的経営手法の成功例として常に挙げられるのが「トヨタ」でした。しかし、近年、このトヨタの愚直なまでの品質管理にも綻びが見えてきました。

(p87より引用) 現場で異変に気づく「センサー機能」が劣化しているだけではなく、現場で感じ取った問題を関係者に伝える「伝達機能」も衰えているにちがいありません。

 こういう「組織としての感度の低下」は、グローバル化に代表される経営環境の質的な変化がひとつの外的要因といえるでしょう。
 この点に関しては、グローバル化との掛け声のもと事業拡大という「体格」の追求にシフトし過ぎて、日本独自の「体質」を犠牲にした結果だというのが遠藤氏の論です。

 さて、本書を読み通してみて、こういったメインテーマのコンテクストの外に、ちょっと気になるコメントがいくつかありました。

 たとえば、日本企業が重視する「コンセンサス」についての遠藤氏の評価。

(p163より引用) コンセンサスが意味をもつのは、たとえそこに時間を費やしても、ひとたび合意が得られれば一致団結して事に当たり、トータルで見ればよりスピーディに目的を達成することができるからです。コンセンサス自体が目的化してしまい、根回しばかりに気を取られ、決断を先延ばしにするのでは、なんの意味もありません。

 もうひとつ、「現場力」について。

(p165より引用) 重要なのは、現場に落ちている小さなヒント(点)を大きなコンセプトに昇華させるセンスや能力です。その現場力を磨き上げるには、単純にコンピテンシーなどの一般的なものさしで人材を評価するのではなく、一人ひとりの個性を人間対人間の関係性のなかで見極めることが大事です。

 いずれも、まったくそのとおり、大いに首肯できる内容ですね。



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