見出し画像

日本の伝説 (柳田 国男)

 家の本棚の奥にあった本です。
 奥付けには昭和59年17刷とありますが、元は、昭和4年「日本神話伝説集」と題して出版された柳田国男氏54歳のときの著作とのこと。日本国内に散在していた伝説を丹念に集め記録したものです。

 冒頭、柳田氏は「はしがき」において「伝説と昔話」の違いをこう説明しています。

(p9より引用) 伝説と昔話はどう違うか。それに答えるならば、昔話は動物の如く、伝説は植物のようなものであります。昔話は方々を飛びあるくから、どこに行っても同じ姿を見かけることが出来ますが、伝説はある一つの土地に根を生やしていて、そうして常に成長して行くのであります。雀や頬白は皆同じ顔をしていますが、梅や椿は一本々々に枝振りが変っているので、見覚えがあります。可愛い昔話の小鳥は、多くは伝説の森、草叢の中で巣立ちますが、同時に香りの高いいろいろの伝説の種子や花粉を、遠くまで運んでいるのもかれ等であります。自然を愛する人たちは、常にこの二つの種類の昔の、配合と調和とを面白がりますが、学問はこれを二つに分けて、考えて見ようとするのが始めであります。

 柳田氏といえば民俗学の大家として有名ですが、田山花袋・国木田独歩・島崎藤村らとの交流があったというだけあって、(私のようなど素人が言うのも不遜ではありますが、)文章もいいですね。

 さて、本書の内容ですが、目次を辿るとこういった章が続いています。  
 「咳のおば様」「驚き清水」「大師講の由来」「片目の魚」「機織り御前」「御箸成長」「行逢阪」「袂石」「山の背くらべ」「神いくさ」「伝説と児童」。
 どの章をみても、日本のあちらこちらの町や村に伝わる興味深い伝説が、それこそ山のように紹介されています。似たような話が全国各地で同時偶発的に見られたり、また、伝承の連続性を感じさせるような連なりで残っていたりと本当に興味は尽きません。

(p97より引用) 二つの土地の神様を、同じ日に同じ場所で、お祭り申す例は方々にありました。そうすれば隣同士仲が良く、境の争いは出来なくなるにきまっています。地図も記録もなかった昔の世の人たちは、こうしてだんだんにむりなことをせずに、よその人と交際することが出来るようになりました。だからどこの村でも伝説を大事にしていたので、もし伝説が消えたり変ったりすれば、お祭りのもとの意味がわからなくなってしまうのであります。

 伝説は、まさにその土地の生活から生まれたものでした。逆に、伝説がその土地の生活を形づくっていったともいえるのでしょう。

 本書のほとんどは、柳田氏の地道なフィールドワークによる伝説の渉猟の結実です。
 最近はこういった本は非常に少なくなりましたし、ほとんど話題にものぼりません。時折、こういった著作にも意識して触れたいと思います。



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?