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ミツバチの会議 なぜ常に最良の意思決定ができるのか (トーマス・D. シーリー)

(注:本稿は、2014年に初投稿したものの再録です)

 以前、書評で採り上げられていたので興味を抱いて読んでみたものです。

 「ミツバチの会議」というタイトルは、何とも気になるいいネーミングですね。

 本書のテーマは、ミツバチが新しい巣を作る際の「集団としての意思決定プロセス」を解明することです。
 著者が発見したそのプロセスは、なんと「直接民主主義」ともいえるものでした。

(p89より引用) ミツバチの分蜂群は将来の住処を選ぶとき、直接民主主義の名で知られる形式の民主主義を実行する。意思決定に参加を希望する共同体の個々の成員が、代表を通してではなく直接参加するというものだ。

 主役は「探索バチ」です。ミツバチの社会の構成員のほとんどは働きバチですが、新たな巣を作らなくてはならない時期になると、その中のごく一部が探索バチとなって巣作りに適した場所探しの活動を開始します。

 探索バチは、あちらこちらを飛び回り、空洞の容積・出入り口の大きさ/向き/地上からの高さ等の基準に基づいて、いくつもの巣作り場所の候補を捜し出してきます。そして、その中から、最適の住処を絞り込んでいくのです。

(p123より引用) 分蜂群にこれほど徹底した住居選びができるのは、その民主的組織が、一緒に働く多くの個体の能力を利用して、意思決定プロセスの基礎となる二つの部分、すなわち選択肢の情報収集と、その情報を選択するための処理を、集団的に遂行するからだ。

 分蜂群が、あたかも “ひとつの意思決定体” として機能しているというのです。これは驚きですね。

 さて、この意思決定のプロセスは、探索蜂のダンスによって行われます。

(p148より引用) 探索バチのダンスは候補地の位置だけでなく、その質に関する情報も与えていることを示していた。・・・「もっとも活発なダンスは第一級の造巣場所を表わし、二級の巣は気の抜けたダンスで発表される」

 この活発なダンスの影響で、その候補地の支持者(支持バチ?)が増えてゆくというわけです。

 さて、本書では、興味深い実験により「ミツバチ分蜂群の意思決定プロセス」を解き明かしているのですが、最高に面白いのは、このミツバチ分蜂群と霊長類の脳の意思決定メカニズムとを比較して、その根本的類似点を指摘しているところです。
 ここでは、ミツバチは “ニューロン” に相当します。

(p239より引用) 共に認知主体として、意思決定のための情報の獲得と処理をうまくできるように、自然選択で形成されたという部分だ。さらに、いずれも民主的意思決定システムであり、大局的な知識や特別な知能を持つ中央集権的な決定者がいて、他の者たちを最善の行動に導くというのではない。むしろ、分蜂群でも脳でも、意思決定プロセスは比較的単純な情報処理単位の集まりの間に広く分散しており、単位の一つひとつは集合的判断を下すために使う情報の総体の、ごく一部しか持っていない。・・・情報に乏しく、認識力の限られた個体の集まりから第一級の意思決定集団が作られる・・・

 こういったプロセスにおいて最善の意思決定がなされるのであれば、いわゆる「リーダー」の存在意義は一般的な了解とはちょっと変わったものになります。

(p281より引用) 民主的集団のリーダーは、議論の成果ではなく、プロセスを形作る役目を主に果たすのだということを、ハチの家探しは私たちに気づかせてくれる。さらに、直面する問題と決定のために使う手順について、集団のメンバーに合意ができていれば、民主的集団はリーダーがいなくても完璧に機能できるということもミツバチは教えているのだ。

 この意思決定過程においては、集団の内外からの「圧力」が機能することはありません。主張者の主体的かつ積極的な活動と支持者の事実に依拠した冷静な判断とが、集団の意思を一つにまとめていくのです。

 自然界が魅せる見事な自律的機能の仕組みのひとつですね。



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