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仕事。 (川村 元気)

(注:本稿は、2016年に初投稿したものの再録です)

 通勤途上で聴いているpodcastのバックナンバーで著者の川村元気さんとともに紹介されていた本です。ちょっと興味をもったので手に取ってみました。

 著者自身も有名な映画プロデューサーですが、本書に登場している12人の対談相手のラインナップもすごいです。山田洋次、沢木耕太郎、杉本博司、倉本聰、秋元康、宮崎駿、糸井重里、篠山紀信、谷川俊太郎、 鈴木敏夫、横尾忠則、そして坂本龍一

 どの方との対談もとても興味深いものですが、その中から私の印象に残ったやりとりやフレーズを書き止めておきます。

 まずは、倉本聰さん
 フリーの脚本家となってNHK大河ドラマの制作に関わりましたが関係者との意見の衝突により途中降板、それが契機となって北海道に移住したのだそうです。

(p86より引用) 倉本 でも、そんな暮らしの中で、東京でちやほやされていた時代は業界の人間としか付き合っていなかったなと気づいたんです。そのことに愕然とした。利害関係かある人とだけつるんで、何をインプットできていて、どうしてものが書けていたんだろうって、急にものすごく不思議に思ったんですよ・・・
川村 ・・・東京だけにいると、いわゆる同業の仲間と価値観が似てきてしまう。物事の正解、不正解が同一化してしまうことが気になっています。
倉本 そういう意味では僕は北海道に来てから、新聞を取ってないんです。新聞は字で出来事を解釈するから、記者の主観や論評が入るんですよ。事件が別の形でインプットされて、答えまで書かれちゃう感じがある。でも、テレビは画で見せてくれるから、正解を自分で考えて判断しなくちゃならない。

 私はほとんどテレビは見ないのですが、確かに音声を消して「画面」だけを取り出すと、判断力の修養になるんですね。

 もうお一人、写真家の篠山紀信さん
 篠山さんが語る創作の動機は予想外のものでした。

(p179より引用) 僕は褒められたくて写真を撮っているってことですよ。(笑)。このメディアの読者にどういうものを返したら喜ばれるのか、そこを考えるわけ。自分がやりたい作品をつくってるわけじゃないんだから。・・・
スランプになる人はオリジナルをつくってるからじゃないの?あと、スランプだろうがなんだろうが、撮り続けるとかやり続けるってことが重要なんだと思うね。

 オリジナリティに対する考え方は、いろいろなジャンルのクリエーターの方々によって様々です。

 音楽家坂本龍一さんは「クリエイティビティ」についてこう語っています。

(p262より引用) 川村 でも、白い紙に思いついたことを思うがままに塗りたくるのがクリエイティブだと言う人も・・・
坂本 それはだめだな。勉強するってことは過去を知ることで、過去の真似をしないため、自分の独自なものをつくりたいから勉強するんですよ。本当に誰もやっていないことをやれるかどうかという保証なんかなくても、少なくともそこを目指さないと。

 「クリエイティビティ」は、何もないところからいきなり現出するものではない、そこには過去を学ぶという努力が必要で、坂本さんにとって過去を学ぶ意義は「新たなものを創り出すためにある」のです。

 さて、12名の強烈な個性をもつ方々との対談は、同じような世界で仕事に取り組んでいる著者にとっても大きなインパクトを与えました。
 本書のあとがきには、著者の所感が縷々綴られていますが、その中で、対談相手のすべての方に発した共通の問いが紹介されています。

(p276より引用) 「仕事で悩んだとき、辛いとき、どうやって乗り越えましたか?」
真似ることで学ぶ、素人であり続ける、自分の原体験に向き合う、無理をしてでもやる、間違うことをよしとする、自分の目で物を見る、どう生きるかを面白くやる、世界を受容する、共通無意識にアクセスする、野次馬的にやる、崩落した先に道を見つける、オリジナルであるために学ぶ。
誰もが、自分なりの方法を見つけ、その壁を乗り越えていた。

 対談の対象として本書に登場している方々は、芸術家や作家といった(私たちからみて)特別な世界の人であることは否定できません。
 しかしながら、そういった方々にも不遇な時期がありました。この彼らの一つ一つの言葉には、普通のビジネスパーソンにも当てはまる “立ち上がるための思考・行動の基本型” が示されているように思います。

 謙虚な姿勢で外部性を受け入れ自らの原点に戻る、そこから改めて前に進み始めるということでしょうか。



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